■幼い頃のように

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 言われて、修太郎(しゅうたろう)は言葉に詰まった。  この本に興味を持たれてしまったのは、自分の失言が招いた結果だ。  何故〝日織(ひおり)さんのことを思い描きながら〟などと、言わなくてもいい情報を付け加えてしまったのか。  後悔したところで、ワクワクした顔で修太郎を見つめている日織をなだめることは、最早(もはや)不可能だろう。    この本、確か出だしのあたりは「今からこういう話をしますよ」みたいな前振りから始まったはずだ。  そこを読んで聞かせる分には何の問題もないか。 「最初からお読みするんでよろしいですか?」  そう思った修太郎が一縷(いちる)の望みを掛けて問えば、ほんのちょっと考える仕草をした日織が、「長編ですか?」と小首を傾げて。  日織に嘘のつけない修太郎は、「ええ。長編です」と答えざるを得なかった。  小説としては20万文字程度で、そう長いものではない。集中すれば1時間もあれば読み終えてしまえるだろう。  だが、音読と黙読とでは違うから。 (諦めてくださるかな?)  一瞬そんな期待をしてしまった修太郎だったのだが――。
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