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「日織。こっちにおいで?」
あえて呼び捨てで妻を呼ばわると、修太郎はソファーに深く腰掛け直す。
そうして脚をぐっと開いて、その間に座るように日織を誘った。
「貴女がお小さい頃にもこうやって後ろから抱えるようにして本を読んで差し上げましたね」
あの頃は4歳の小さな日織を、腿の上に載せて物語を読み聞かせた。
話の内容に合わせて脚を揺すったりして……。耳だけでなく、全身で彼女を愉しませようと頑張ったのだ。
柔らかく小さなお尻が、自分の身体の上にちょこんと載せられていることに、心なし落ち着かなかったのを覚えている。
弟の健二とは明らかに違うふわふわな柔らかさに。……だけど妹たちにだってこんな変な気持ちになったことはないのにな、と不思議に思った。
後ろから見ていると、幼い日織がどんどん物語に入り込んでいって、身体がギュッと縮こまったりソワソワと身じろぎしたり。嬉しそうに左右に揺れたり……。そういうのが如実に窺えて。
背後からそっと支えた小さな身体が、修太郎の紡ぎ出す物語の世界へ引き込まれていくのを実感できたあの時間は、修太郎にとって掛け替えの無いひと時だった。
きっとあれがあったから、13歳も年の離れた幼女だった日織のことが、脳裏から離れなくなってしまったのだ。
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