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「しゅ、たろぉさっ、私、本を読んでいただきたいだけなのですっ。なので、ふ、服を脱ぐ必要は――」
日織がむき出しになってしまった胸を隠すようにして小声で何か言っているけれど、修太郎はそれを無視して朗読を開始する。
――『私の手にある剃刀は、銀色の虫が這うようにしてなだらかな肌を這い下り、その項から肩の方へ移って行きました。』
本の間に挟まっていた栞を手に取って、音読に合わせるように日織の項から肩のラインを優しくザリザリ……っと掻いていく。
「やっ、しゅ、たろぉさっ、くすぐったいのですっ」
日織が背中を丸めるようにして修太郎の手にした栞から逃れようとするけれど、修太郎は日織の腰をしっかり抱えていてそれを許さない。
もじもじと身じろぐ日織を片腕で抱きしめたまま、修太郎は彼女の耳元で朗読を続けた。
――『一体彼女は、自分の顔は見ているだろうが、背中がこんなに美しいことを知っているだろうか? 彼女自身は恐らくは知るまい。それを一番よく知っているのは私だ、私は嘗てこの背中を、毎日湯に入れて流してやったのだ。………』
決して指先では日織の背中に触れず、まるで剃刀の刃を当てているかのように、手にした栞でサリサリと鳥肌の浮いた白い肌を引っ掻くように撫で下ろす。
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