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「実際は想像以上でした」
言って、胸に這わせていた片手を持ち上げて日織のあごにかけると、こちらを向くように顔を上向けさせてやんわりと唇を塞ぐ。
「ね、日織。このまま続けさせて?」
唇を離すと、修太郎は潤んだ瞳で自分を見上げる日織にそう問いかける。
まるでその言葉への返事みたいに、日織の手からスルリと本が落ちて。
ソファー下に敷かれたラグの上に転がった。
修太郎はそれを合図にしたみたいに日織をソファーに寝かせると、その白く華奢な身体を我が身の下にしっかりと組み敷く。
日織が、本の登場人物の中の〝ナオミ〟みたく、自由奔放な悪女でなくて良かった、と思いながら――。
END(2021/09/09)
※谷崎潤一郎『痴人の愛』より一部抜粋。
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