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「日織が」の場合
日織が熱を出したと聞いて、修太郎は終業の合図とともに、押っ取り刀で藤原家を訪れた。
「しゅ、たろ、さ……ごめ、なさ」
「しんどい時は喋らなくていいですから」
聞けば、咽頭炎で喉が真っ赤に腫れあがっているのだという。
それで熱も高く、修太郎を見上げる目がうるうると潤んでいる。
そうして、いつもなら修太郎の耳に心地よく響く可愛らしい日織の声が、掠れて聞き取りにくい。
「伝染、ったら大……変なの、でっ」
そのうえ布団に半分顔を埋めて言うものだから、日織の声はモゴモゴとくぐもっていた。
それでも愛する日織のことだ。
声が聞こえにくくても修太郎には彼女の言わんとしていることが手に取るようにわかる。
「いえ、僕は寧ろ感染つしていただこうと思ってここへ来たんですよ?」
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