「日織が」の場合

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「早く元気になってくださいね」  いまの日織(ひおり)では、ハグはもちろんキスだって絶対に許してはくれないから。  本音を言うと、日織の病気をもらって寝込めたなら、何だか日織の中にいたウイルスが自分の中に入ってきて、とか思えて堪らなく嬉しくなるのだけれど。 「日織さん、キスとかしたら……」 「だ……メに決まって、ますっ」  お(うかが)いを立てた途端、グッと布団の奥深くに日織が潜り込んでしまって、いま修太郎(しゅうたろう)から見えているのは布団からはみ出した長い髪の毛のみ。  その毛束を一房持ち上げて唇に付けながら 「じゃあ、お元気になられたら――」  とつぶやけば、 「ぃ……っぱい、いっぱ、いして、頂きた……ぃのです」  ほんの少し日織が布団をまくりあげて顔を見せて、潤んだ視線を修太郎に投げかけてくる。  その表情を見た瞬間、修太郎は眼鏡を外して邪魔な布団をグイッと押し退けると、日織の唇に自分のそれを合わせていた。
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