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「ついで、に……身体も拭いて、頂け、たら、……」
助かります、と言外に含ませたら日織がますますゆでダコになった。
「あの、や、はり――ダメ、でしょうか?」
もう一押し、と言わんばかりに声のトーンを気持ち落としてシュン……としたふりをすれば、日織は「だっ、大丈夫なのですっ! お任せくださいっ!」とすぐに絆されてしまう。
「お、お湯の準備してきますねっ」
――熱々の濡れタオルを作るために。
そう言い残してパタパタと寝室を後にする日織の後ろ姿を見送りながら――。
(うちの奥さんは怖いくらいに無防備でいらっしゃる)
修太郎はそのことが嬉しいような恐ろしいような、複雑な心地がして。
こんな風に丸め込まれる相手が自分ならば一向に構わない。
だけど、他の男だったら?と考えるといささか注意喚起が必要に思えた。
(早く体調を万全にして、簡単に男に言いくるめられると危ないですよ?ということを、身をもって解らせて差し上げないと)
そんな風に思ってしまった。
日織さんにいただいた愛しいウイルスたちだけれど、こうなったらなるべく早めに撃退しよう。
あえて飲んでいなかった薬を飲む時がきたな、と修太郎は思った。
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