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「あの男は日織さんが自分のそばにずっといたと言いました。あれは嘘ですか?」
――「もちろん嘘に決まっているのですっ!」と言って欲しい。
そう願って問いかけた修太郎に、日織がほんのわずか、ピクッと指先を跳ねさせた。
触れられた頬と、包み込んだ手でその微かな変化を感じた修太郎は、グッと奥歯を噛み締める。
「……事実、なんですね?」
日織の手に載せた指先に我知らず力がこもった。
「修太郎さ、痛い、ですっ」
眉をしかめて日織が抗議の声を上げるけれど、修太郎は自分の感情をコントロール出来なくて、彼女の小さな手を解放してやることが出来ない。
「――何故?」
吐き出すように吐息ごと問えば、日織が怯えたように修太郎を見つめ返してきた。
「私っ、ただ……っ」
日織が何か言うのが怖くて、修太郎は彼女を腕に抱いたまま、何も言わずに立ち上がった。
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