7.どちらに転んでも損はない*

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 いつも情事の前には身体を清めたがる日織(ひおり)だ。  情欲にまみれた気持ちと、理性との狭間(はざま)で揺れる、色素の薄いブラウンアイをわざと覗き込んで、修太郎(しゅうたろう)は日織の中に埋めた指を、クチュッという濡れた水音とともに、もう少しだけ奥へと進めた。 「や、――ぁっ」  これで、劣情に飲まれてそのまま続行になるか、それとも理性が優って風呂を優先させるか。  日織がどちらを選んでも、修太郎は濃厚な妻の香りを嗅ぎながら行為に及ぶことができるか、もしくは愛する女性と一緒に入浴して、その身体を隅々まで洗い清める権利を有するかの、二者択一になる。  つまり、どちらに転んでも全くもって損にはならないのだ。  だからこそ、おおらかな気持ちで日織に決めてもらおうと構える事ができる。 「しゅ、うたろぉさっ。私……もぅっ」  言って、ギュッと自分にしがみついて頬を擦り寄せてきた日織に、修太郎は彼女が前者を選んだことを悟った。
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