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プロローグ
「どうしたらいいの…?」
朝日が昇る早朝。
住宅街を悲しげに歩く一匹の小さな犬がいた…町をさ迷うかのように歩いている彼女の歩みに、力はない……。
「まさか、こんな事になるなんて…」
~半日前~
「いやっほっほーいっ!いよいよ、試すときがきたのだぞぃっ!」
狂喜乱舞、狂い咲くように躍り、舞い、己の魔力に自画自賛する男の姿があった。
魔界の頂点に君臨する、魔王である。
幾つもの、闇の灯火に囲まれた暗黒。
深淵に包まれたその一室。
その男は、巨大な犬型の魔獣に命令をする。
「良いかぁ?ケルベロスよっ!今からお前に我が最上級の魔法…異世界転送を施す!」
【ズズンッ!】
ケルベロス。
魔界の番犬たる猛獣が、その巨大を見せ付けるかのように動き出す……!
「はいっ!」
「楽しみ…」
「ウンウン、ほんと楽しみですワンッ!」
そんな巨大な魔獣は、胴体は一つながら三つ首に別れており、その一つ一つの首は互いに意思を持っているようであった。
「うっふっふっふぅ~…では、魔法を使うぞぃっ!闇の力よ、我が問いに答え、そして顕現するがよい…ブラックホールッ!」
魔獣の前に、暗く、黒く…何処までも続いていそうな闇の穴が現れた……。
「さぁ、ケルベロスよっ!魔界の猛獣よ…その世界を征服し、我が手中に治めてくるのだっ!」
「はい、必ずっ!」
「うん、がんばる…」
「やってやりますワンッ!楽しみだワンッ!」
その深淵に魔獣の三つ首は、どれもやる気に満ちた表情を浮かべている。
魔界の王たる、彼女たちの長のため、健気にその使命を全うする為にも、強い想いを持っていたのだ。
そんな彼女たちは、勇んで一歩前へと踏み出した…!
ブラックホールと呼ばれた闇の渦は音もなく、そんな彼女たちを吸い込んでいく……!
「頼んだぞい…ぞい…ぞい……」
渦の中へと吸い込まれた彼女たちの脳裏には、魔王の声がこだましていく……。
「う、う~ん…」
その空間へと誘われた影響なのか、異空間を漂っていたせいなのか、理由は分からないが、巨大な体を持つケルベロスには、途中の記憶は一切なかった。
気付けば、闇深き魔界とは比べ物にならないほど色鮮やかな世界へと、彼女たちは無事に転送されていた。
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