落とし物  【5分で読めるシリーズ】

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 学校へ向かう途中、ハンカチを拾った。とても綺麗な色のハンカチ。  深紅色と言うのだろうか?  そこに黒く細い線が沢山引かれているハンカチだった。  何やら彼岸花をイメージさせるようなそんな柄のハンカチだったから、だれか大人の女性が落としたものなのかなと思った。  でもこの辺りに通るのは私たち学生ぐらいだから、落とすとしたら、うちらの誰かだろうか。  すごくおしゃれなハンカチだし、高そうだった。  とりあえずポケットへ入れておくか。  あまりにも綺麗でかっこいいから貰って帰ろうかとも思ったが、 私は学校の先生に渡そうと思い、そのまま持って行くことにした。  放課後  友達と教室で戯れる。  部活に入ってない私たちは、夢中で語り合っていたい。  彼女とは昔から中の良い友人だ。  教室には私たち二人しかいない。 「あ、もうこんな時間だよ」 「帰ろっか」  その時だった、  私が廊下の方を振り向くと、誰かがこちらを見ていたような気がしたのだけど、  気のせいだろうか。  廊下に出ると、すうっと強い風が吹いて行った。 「何、今の風?」 「びっくりしたー」  それは颯爽と廊下を吹き抜けた。私達は顔を見合わせた。  友達は、夕暮れの茜空の中語り歩く。 私はその後ろで話を聞いて笑う。 「ねぇ、最近この学校で流行ってる話知ってる?」 「あぁ、あれでしょ、人が消えるやつ。  特に何のひねりもなくて面白くないじゃん」 「そそ、」  私は笑いながら混ざった。 「えぇ~何それ?」  またありふれた都市伝説の類だ。  女子はこの手の話しが本当に好きだ。   「ただたんに神隠しに会っちゃうってだけの話しなんだけどね。  でも、巻き込まれると、あっという間に消えちゃうって言うじゃん。  誰も帰ってきてないって話だし。  でも、この話が怖いのが、ただ拾ってあげただけで神隠しに会っちゃうってとこなんだよね」 「もういいよ、知らないものを何でも拾うなって言う、子供に言い聞かせる為の躾話しでしょ、それ」 私は無言で聞いていた。 「うん。そうだといいんだけど、そのハンカチってのが、赤い綺麗なハンカチなんだって。  黒の細い線が入っていて、とてもおしゃれな女性が使うようなデザインだって聞いてる」 「その設定はいるの?」 「んー、設定なのかな。なんかね、ある女の人が自殺したらしくって。  その時に、黒い線が入ったハンカチを持っていたらしいんだけど。  よく見るとそれは線じゃなくって、恨みのある人の名前を、書き綴ったものだったんだって。  死んでた女性の死体は、青白くなっててとても不気味だったらしくってね。  恨みのこもったような形相で、相当、復讐したかったとかなんとか」 「それって自分を自殺に追い込んだ人間を、って事?」 「ううん。なんかその女の人も変わってて、精神がおかしい人だったんだって。  書かれていた名前の人達は、その人とは全く関わりもない人達の名前らしいの」 「えっ?」 「誰でも良かったみたい。被害妄想?的な?  自殺の原因と言う原因がわからない事件で。と言うか、この世界に恨みがあったみたいな話なの」  夢中になって話している姿がなんだか楽しそうだった。  そんな楽しそうに語る彼女の話しを、私はただ、聞き続けた。  彼女はさらに語り続けるが、私はすでに笑えなくなっていた。 「でね、その落ちてるハンカチの黒い線って言うのが、神隠しにあった人達の名前なんだって。小さすぎて黒い線に見えるっていう、あそこね」 「へぇ~、なんかそれは気味悪いね」 「でしょ。  そのハンカチの意味を知った時、後ろにその女の人が立ってるんだって。  で、すっとさらっていくらしいよ。  そんな限定されたハンカチだったら落ちてても誰も拾わないよね」 「私……拾った……」  初めて私は会話に参加した。 「え?なんて?」  振り返った瞬間だった。いつも笑って話を聞いてくれる親友の姿が無かった。 「あれ、どこ行っちゃったの…………?  え?なんで? 確か親友と帰ってなかったっけ? あれ、私一人で帰ってた?」  確か親友と帰ってた気がしたんだけど、 「先帰っちゃったのかな?  まぁ、いっか」  姿が見えないので私は一人で帰ることにした。 「うあっ、痛っ、」  その時急いで歩いて行く人とぶつかった。  その人は急いでいたのか、そのまますたすたと歩いて行った。  あれ?  ちょっと待ってぇー。  私は急いでその人を追いかけた。 「あのすいませーん。   ハンカチ落としましたよー」
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加