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作戦決行
2×××年 午前6時。日曜日。
まだ皆んなゆっくりまどろんでいる時間。内陸部でそれは起きた。
ボカーンドカーン、ゴゴゴゴゴ‥
地響きにも近い感覚と破裂爆裂音。炎が上がる建物。バチバチと弾ける音。全てが一瞬して変わった。それもこれも全てあの男の企んだこと。
助けて…痛いよ…うわぁ、様々な人の喚く声や断末魔が上がり、まるで地獄絵図だ。生きたまま地獄に突き落とされた人々は翻弄され狼狽えるしかない。
逃げ惑い家族と離れてしまった者、亡骸のそばで崩れ落ちる者、動けずに呆然としている者。人の本質が問われる出来事はことの始まりに過ぎない。
「始まったか…」
「黒、なんでこんなこと」
「先手必勝だ。ちんたら戦ってやるつもりはない」
黒曰く、敵組織の鷹翼にスパイを送り込み内陸部の耐久性に劣る建物各所に爆弾を設置させたらしい。そして内陸に居る協力者に守らせていたらしい。つまりその者も爆発の巻き添いに合ったということ。
なりを潜めていた冷酷さが表に出てきたかのようにニヤリと不敵な笑みを浮かべている。
つい先程までの情事は無かったかのように張り詰めた空気感の中、内陸部へ侵攻を進める。
爆発のおかげか見張りが少なく容易に進入できた。黒を中心にして俺と燈が周りを囲みその後ろに部下たちがゾロゾロと連なっている。よく知る顔も初見の顔も色々だ。改めて見てみると結構な大所帯だ。
砕けた建物や瓦礫の山を踏み越え屍を脇に敵地を目指す。澄んだ雲がいっきに淀んだような空気感と独特な死臭。
すれ違う住民たちの目は絶望そのものだ。時折見透かしたように憎めしい表情を向けてくるものが居た。
背が高く大きな門は慌てて出て行った痕跡を残したように半開き状態だった。豪邸と呼ぶに相応しい佇まいの建物に住むのは、他でもない鷹翼の奴らだ。
黒の命で手榴弾を投げたのはよく知る燈だった。こうして命を燃やす戦いの火蓋が切られた。
「レオ・ベルナール!出てこい!隠れている限り貴様の部下が死ぬことになるぞ」
黒の口上に反応を示すかと思ったが籠城して出てこようとしない。楽しげに微笑む悪魔が右手を上げて下したのを合図に、バズーカ砲が放たれた。
豪華な装飾であしらわれた建物が見るも無惨にひび割れ砕け落ちる。
ついに観念したかのように鷹翼の組員が姿を現した。中心にレオが居るのを確認する。現段階で数は勝るが敵地である以上油断はできない。どのくらい敵が潜んでいるのか検討もつかない。
「卑怯な手を使うとは流石だな」
「お褒めに預かり光栄だ。そちらの領域である以上、こちらはどうしても劣る」
「そのせいで何人死んだ!!関係ないものを巻き込んだ報いは…必ず受けさせる」
怒気を含んだ表情で黒をまっすぐ睨みつめるレオが獣の姿を見せるように怒号をあげる。静かに怒っているという表現が合う姿だ。いっきに周りの空気が張り詰めた。
直に感じる緊張感と威圧感を肌に受けながら黒の合図で皆が一斉に武器を構えた。
ここから今最終決戦が始まる。命と命の奪い合い。生産性はまるでない争いだ。
「鮫牙を根絶やしにしろ!二度と惨劇を繰り返させてはならない!僕に続けーー」
レオが銃を空に向けて撃ち威嚇してきた。そして彼の言葉にいっきに牙を剥いた獣達が襲いくる。
「殺せ、全てを奪い尽くせ。逃げ出す者も容赦なく殺せ‥地獄を見せてやる。私に続け!」
黒の冷ややかな言葉に俺たちも銃を敵に向け、戦闘態勢を取った。
デザートイーグルが敵一人の頬を掠め、それが合図となり銃撃戦が始まった。
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