第2話 言い分

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第2話 言い分

「おはよう~。 ユウカ~」 「おう。 おはよう」  目をこするながら起きてきた少女。  ユウカはキッチンに立ち、食事の用意をしていた。 「今日はスクランブルエッグとか言うやつだな」  と鼻をクンクンしながら嬉しそうにしている。 「あぁ、そうだ。 よくわかったな」 「フッフッフ  我が嗅覚をなめるな」   「はいはい」  彼女は自信満々の表情だった。 「ところでお前、昨日ちゃんと片付けてから寝ろって言ったよな! 」 「ん――――――」  彼女は笑顔のまま静止する。 「どうした、急に怒ったりして……」 「どうした、じゃぁねぇ! 」 「てめぇ、また性懲りもなくポテチの袋ほったらかしにしただろう」 「えっ、あれ、そうだったかなぁ」  彼女は思い出したようにハッとした。 「ま、まぁそのなんだ。 昨日は疲れすぎていて、うっかり寝てしまったみだいだな。  あぁ、大変だ、大変だ 申し訳ない。 すぐに昨日のごみを捨ててこよう」  やけに素直だった。  彼女がこの場から離れ用ようとしているのが、ユウカには手に取るように分かった。 「もう無いよ。  俺片付けたから」 「そ、そうか。 それはお手を煩わせてしまってすまなかった」  ・・・・・・・ 「で、」 「で?」  ユウカは鋭い目で、彼女に問いかけた。  彼女も一瞬で空気感を察しった。 「で?・・・・・・  そ、そうだなぁ、  あっ、  そろそろユウカも学校に行かないといけない時間だな。  私もそろそろ、トイレに行かないといけない時間だし。  じゃ、お互い気を付けて、今日も頑張ろう。    ユウカも気を付けて、いってらっしゃい」  最後は素敵な笑顔を見せてみた。 「お前、あの後また三袋空けて食べたろ」 ――――――。  静かな空間が生まれる。  バレている。  そう思いながら笑顔を決して崩さなかった。  心臓を突き刺されたような痛みが走る。 「あっ、  そろそろユウカも学校に行かないといけない時間だぞ。  私もそろそろ、トイレに行かないといけない時間だな。  じゃ、じゃあ、お互い気を付けて。  ユウカも気を付けて、いってらっしゃい」 「何故二回言った」 「じゃ、じゃあねぇ~」  彼女は穏便に笑顔でこの場を去ろうとした。 「おい!  お前いつもトイレ行く時間なんて決まってないだろ」 「あはははー。  行ってらっしゃーい」 ―――――――。  ユウカの中で何かが切れた。 「待て! 」 「ヒィっ!  は、はい! 」  その腹の底から煮えくり返るような低い声は、彼女の動きを一瞬で止める。  彼女はこの後どうなるのか、予想がついた。  だからより逃れたいと思っている。 「お前ちゃんと言わないといけないこと、  あるよな」 「え、えっとー、そダネ、  いってらっしゃいなら、何回も言ってるぞ」  恐る恐る、彼女はしゃべる。 「お前さっきから棒読みになってるぞ」 「え、あ、あれ? そ、ソウカデスカネ  あれ、オカシイナ」 「お前、謝る気無いな」 「な、  なんのことか、、、、」 「あっ痛! 」  彼女の負けん気が、余計ユウカを刺激した。 「もーお!  何も殴ることないだろうがい! 」  殴られた事に、流石に彼女も言い返す。 「お前いい加減にしないとホントに怒るぞ」  冷たい目で怒るユウカが、いつもと違う為、殴られた時に、彼女の火は鎮火した。 「え、いや、ユウカ。 なんか、今日のお前本当に怖くないか?  そ、それに、もうすでにユウカ怒ってらっしゃるし……」 「あ? なんか言ったか? 」 「い、いえ、  何でもないです」 「はぁー。  お前もうポテチ買ってこないからな」 「え、なんでぇ!? 」 「お前言う事聞かないし。 反省の色もないみたいだしな」 「そ、そんな…  ちょっと待ってくれ。  ちがうんだ。 聞いてくれ  実はあの後大変だったんだ」 ◆  大笑いしながらTVを見ていたエレーナは残りのポテチを食べ終わっていた。 「なぁユウカ。 こいつバカだな」 ――――――――。  返答が無い。 「なんじゃ、寝てしまったか」  エレーナはそのまま番組を見続ける。   「さて、TVも終わってしまったし。 もう寝るか。  このごみを捨てに行く前に先に歯を磨くかな」  エレーナは袋を置いて洗面台を目指した。  眠たくなっていたので、羽をぱたぱた羽ばたかせながら、ゆくっりゆらゆらと、飛んでいった。 「あれ? 戸棚が空いてる。  もう、まったくユウカはだらしがないな。  閉めてやるか」  眠たそうな目を擦り、戸棚に近づいた。 「ん? アレ? これは… 」  エレーナは隙間から頭を出す、ポテチの袋を見つけた。  しかも皆袋の色が違っている。  種類が違うモノが戸棚の中に置かれていた。 「ちょっと待ってくれ。 なんだこのポテチは。  見たことがないぞ。 もしや、新種か!? 」  彼女の目は輝いた。うとうとしていた目は見開き、輝きを取りもどす。  彼女はすぐさま戸棚に入っていた袋を引っ張り出すと、その姿を露わにした。 「じゃがバター味に、チーズグラタン味、それからこれは・・・ 」  どれも食べたことがない味。  そして一つだけ黄金に輝く袋があった。 「黄金ポテト味プレミアムポテチだとぉ!  一体何なのだ。 君たちは」  どれも食べた事の無い味に心が躍っていた。  特にこの金に輝くプレミアムポテチは、とても存在感が大きかった。 「いや、しかしユウカとも約束したし。 だめだ、ダメだ。  特に今日は駄目!  さ、歯を磨いて眠るとしよう」  彼女は袋を片付け歯を磨いた。  ユウカのいる部屋に戻る際、戸棚が気になって立ち止まっていた。  ユウカとの約束だからと。  そう自分にいい効かせると、渋々布団に入っていた。  しかし、一度興奮してしまっては、布団に入ろうにもなかなか眠れない。  彼女は必死に眠ろうとした。  思い出すポテチの袋たち。  彼女は頭を振って、頭の中に浮かぶ記憶の靄を取り払った。  目をつぶれば寝れるだろう。  と硬く目を閉じたが眠れない。  そうだ、なにか違う事を考えよう。 そう思い妄想を膨らませてみた。  楽しくユウカと過ごす日常、一緒に夕食を囲いながら幸せそうに語りあう二人。  想像するだけで幸せになっていた。  優しさに包まれていたエレーナはそのまま休まる体制に入っていった。  するとテーブルの上にゴールデンに輝くプレミアムポテチを出された。  さぁ、エレーナお食べ。  彼女は飛び起きた。 「だめだ! 寝れん。  すこしテレビをつけて気を紛らわそう」  TVの電源をいれた。  しばらくニュース、バラエティ番組と見終わると、ようやく体の興奮は収まった。 「んー眠たくなってきたのー。 そろそろ眠るかー」  棒になっている目を擦り、座っていたベッドに転がり布団を掛けた。  次の日も予定がない彼女の時間の使い方は、本当に自由である。  そして彼女の中にあったポテチの存在はすっかりと消えていた。  しばらくするとTVから軽快な音楽が流れ出した。  TVCMだ。  何やら丁度この年がポテチの六十周年記念の為、期間限定プレミアムポテチのCMが流れた。  彼女の頭にまたあの金色のポテチが帰ってきた。 「あうっ、  せっかく忘れていたのにぃ。」  どうも、ポテチは彼女の記憶から消えたくないようだ。  TVを付けたままにしていた御蔭なのか、運命だったのか、たまたまつけていたチャンネルで映画がやりだした。 「あれ? このアニメは。  まさか映画があったなんて」  彼女が大好きなアニメの映画が始まりだした。  これは見なければならない!  そう心が判断した瞬間、彼女の眠気は一瞬にして飛んで行った。 「何か食べ物が必要だな」  家のカーテンは締まっており、寝るために電気は消したまま。  照らすのはテレビの光だけ。  何とテンションの上がることか。  まさに、今の空間は映画館そのものであった。  彼女は戸棚を開けた。  だが、それが大いなる間違いだった。 「はっ!  しまった」  再びプレミアムポテチたちが顔を出す。  彼女は葛藤した。 これだけは、これだけは食べてはいけないのだと。  すごく葛藤した。 葛藤して葛藤した挙句に、  そっと戸棚から三つのおやつを取り出し、戸棚の扉をそっと閉め、楽しそうに跳ねながら、向こうの部屋へ去って行った。 ◆  と言う事があってだな。  彼女は必死に説明した。  彼の怒りはピークに跳ね上がっていた。 「で、結局食べたんだろうが! 」 「そうなんだよ! そうなんだけどね! 」  彼女も負けじと声を張り上げた。  逆ギレだ。 「もういいわ、ポテチ二度と買ってこないから」 「なんでじゃ。 なぜそうなる?   それとこれとは話が、、、」 「別じゃない! 」  エレーナの話を割って答えた。 「うぇぁ、わ、わかった。 こうしよう。 この件については本当にすまなかった。  お前が帰ってくる間に、私がこの家を綺麗にしておこう。 頼むそれで許してはもらえないだろうか? 」  ユウカは無言のままだった。  ささ、後は私がやるからと、食器を洗うユウカの体を無理やり押しのけた。。  洗い場に立つと、自信満々に食器を洗いだす。  パリーン!  と言う音がユウカの目の前で響く。  流し台の中で一枚のお皿が割れていた。 「あっ、あはははぁ。  いやー、やってしまったな。 私としたことが。  申し訳ない。  チョッ~チ、一枚割ってしまったようだな。  手を滑らせて。  いやー、しかしよく泡立つ代物だなこれは。  優れモノじゃないか。  おかげで手が滑ってしまった。  よーし。  以後気を付けるぞぉ。  うむ」  ユウカの顔色を伺いながら、不慣れな仕草でやる気を見せた。  普段から一切家事などをやらないエレーナの事だ。 こうなることぐらいはユウカは薄々わかっていた。  ユウカの目がより一層エレーナを睨む。  エレーナは乾いた笑いでごまかし、もくもくと家事を頑張る姿を披露した。 「さ、早く行ってくださいませ。 ここは私に任せてユウカは支度をしてくれ」  食器洗いの途中に掃除機をかけたり、また洗い場に戻ったり。忙しそうに走り回っていた。  だが、これでは効率が悪すぎる。  いつか、必ず、やらかすだろう。  洗濯機に服を入れたかと思うと、今度は足早に出しっぱなしの流し台の水を止め、食器を運び出した。  ガシャ、シャ、シャシャ、―――ン!  とてもおおきな音が立て続けに続く。  ユウカの方を身ながら笑うエレーナ。 「はー。  もういいからやめろ。  お前がやると余計に用事が増えるだけだ」 「な~に遠慮するな。  いいから行ってくれ」 「全然散らかってるだろ。  もう置いておいといてくれ」 「…………。  ごめんなさい」  ユウカの大声に目が点になる。  エレーナは深々く謝った。  彼女の散らかした食器の破片を、手慣れた手つきで片付けると、ユウカは部屋を後にした。 「後は帰ってきたら俺がやるから、お前は絶対何もするなよ」  部屋へ戻るとユウカの手から血が流れていた。 「ユウカ、お前、手をどうした。  ……まさか、切ったのか? 」 「あぁ? 別に何でもない。こんなの。  じゃあ、行ってくるから。  お前次何かやってたら許さないからな」  大きな音と一緒にユウカは出て行った。  辺りには冷たい空気が流れた。 「…………ユウカ、……」  とても悲しそう表情をエレーナは浮かべ、ユウカの出た扉を暫く見つめていた。
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