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今日は、昨日未明都内で起きたオフィスビルからの転落事故の案件に駆り出されたのみで、珍しく早くに警視庁へと戻ることができた。
自分のデスクに着くと、律花はランチバッグを鞄から取り出し、ゆっくりとした足取りで高藤の元へ向かった。途中、七瀬の「笑顔、笑顔」という小声が聞こえたが、それに受け答えする余裕などあるわけがなかった。
「…主任」
戻ってきてから早々、今朝行っていた捜査報告書の続きをコンピューターに打ち込んでいる彼に、そっと声をかけてみる。
「何だ―相川」
当然ながらその端正な面持ちがこちらへと向けられることはなかったが、律花の鼓動は大きく弾んだ。
―名前……声だけで…
これもいつものこと。自分だけではない。分かっていても、こんなほんの些細なことであっても彼を意識せずにはいられないのだ。
軽く息を吸い込む。
「よかったら、お昼一緒にいかがですか?」
果たして綺麗に笑むことができただろうか。
高鳴る鼓動を必死に抑え、律花は口角を上げた。
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