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解放感のある屋上にたどり着くと、去年備え付けられたばかりのライトブラウンのベンチに腰掛けた。
少し距離を空けて隣に腰掛けた彼は、もう弁当箱を開けて箸を取り出している。
「いただきます」と小声だが丁寧に両手を合わせたところを、律花は申し訳なく思いながらも「あの、主任…」と呼びかける。
「……何だ」
向けられたその面持ちは、眉根が寄せられていて、少なからず機嫌を損ねたことが分かった。
―ごめんなさい……。でも今日だけは…
どうか何も言わずに聞いてほしい。―律花は祈る思いでその切れ長の瞳を見上げた。
「……一つだけ、お伝えしたいことがあるんです」
彼はそれは何だというように、軽く片眉を上げてこちらを見つめ返す。
「主任…私……」
心臓が口から出そう、とはまさにこの瞬間のことに違いない。律花は再度、軽く息を吸い込んだ。
「主任がいなければ、今の私はなかったといっても過言ではありません」
一瞬大きく瞳を見開いた彼だったが、直ぐ様何処か面映ゆげに視線を逸らすと、
「……それは、ありがとう…」
そうもたらされた滅多に聞けない感謝の言葉に、思わず頬が緩みかけた、その時だった。
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