幸せにこんにちは②

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幸せにこんにちは②

2人は近くにあった小さな公園へとやってきた。 瑛はずっと俯き、下を向いたま一言も発さずにただ直の後を付けてきた。もちろん、手は繋いだままだから逃げようにも簡単には行かなかった。 「あき……この前の事、なんだけどさ。」 「あぁ、うん。気にしなくていいよ。別に。」 「そう言う訳にはいかないよ。それに、瑛サヨナラって……」 どういう事だと尋ねると瑛は黙りこんでしまう。 「そのまんまの意味だよ。」 「俺があんな事したからなのか?謝って済む問題じゃない事はわかってる。だけど俺は……」 ただ謝りたくてと瑛に向かって言う。その目はとても真剣で、嘘が無いことを物語っている。 「今までみたく仲良くして欲しいなんて虫がよすぎる話だと思う。でも俺は……あきが許してくれるならもっと一緒に居たい!」 「そ、んなの……ムリ、だよなおくん。」 無理ともう一度はっきり言って瑛は振り返る。その顔には涙を沢山浮かべ、今にも零れそうな程だった。 「なんで……やっぱりあのこと怒って……」 「違う!違うんだよ……ごめん、もう……むりなんだ、ごめん、なおくん。」 今にも消え入りそうな震えた声で瑛は何度も無理、ごめんと呟くばかりだった。 「あき!それだけじゃ分からないよ。恨まれたって仕方ないとも思ってる、殴ってあきの気が済むなら殴ればいい。けど……サヨナラとか言うなよ。」 瑛の肩を掴んで必死に説得を繰り返す。何が無理なのか、何がゴメンなのか……直には分からなかった。謝罪をするのは自分の方だとも何度も言った。 「ごめんあき、憎まれても仕方無いのかもしれないけど。でも!」 「……ない。」 「え?」 「憎んでなんてない、嫌うなんてそんな事……あるはずないじゃんか!!」 瑛は大粒の涙を流しながら叫んだ。 顔がぐしゃぐしゃになろうが構わず、涙を零し泣いた。 「なら、どうして……」 「なおくんの事好きだから!もうそばに居るのが辛いんだよ……」 突然言われた好きだという言葉。驚きすぎて聞き間違いかとも思った。 だが、今までの事を全て思い返すと何故瑛が自分のためにこんなにも親身になってくれたのか、支えてくれていたのかがわかったような気がした。 「好きになってごめん……でも、もう自分の気持ちに嘘つけない。この前抱いてくれた時、もうこれで辞めようって思った。だから離れようとしたのに……」 なんで追いかけてくんだよと瑛は呟いた。涙を流しながら友達でいるのは……気持ちを押し殺すのは……これ以上そばに居るのが辛いと瑛は肩を震わせていた。 「あき……」 その言葉を聞いて直は今まで自分がしてきた数々の事を思い出した。 悪気があった訳じゃない。むしろ友達だからこそ、なんでも相談できたし、言えた。逆に言えば、瑛は自分は二の次で、直の為に我慢し、たくさん協力してくれていた。 付き合っていた彼女に合わせたこともあった。そんな時の瑛の気持ちは?いつも通り笑っていたけど、本当は自分の知らないところで泣いていたのではないか?そんな事を思った。心では泣きながら、表では笑顔を絶やさずに直を励まし、時には激励し、共に喜んでくれていた。 自分はなんて残酷な事をしていたんだろう。まったく気が付かなかった後悔と、自分の不甲斐なさに直は小さく拳を握った。 「……ぐすん。ご、ごめんな……こんな事言ったって、なおくん困らせるだけだもん、なっ……」 「あき……そんなことっ」 そんな事ない。どの口が言うのか。散々瑛に頼り、傍にいて……気持ちに気がつけず自分のことばかり。今まで瑛は自分の気持ちを押し殺してまで一緒にいてくれた。それをこれからも続けるというのは余りにも酷い話だと言うことはいくら鈍い直でもわかる事だ。 「なおくん……ごめん、俺……やっぱりもうなおくんの傍にいれないや……」 瑛は背中を丸めその場にゆっくりとしゃがみ込んだ。 それから暫く、瑛は動かなかった。 日が暮れ、風が冷たくなってきた。直はずっとうごけず、話しかけることも出来ずただ、ただ瑛の背中を見ていることしか出来ずにいた。 どれだけ我慢して、一人で泣いていたのか……直はそんな事ばかり考えてしまった。 「……あき。」 ようやく直が口を開くと、瑛はゆっくりと直の方を向いた。まだその目には涙が浮かんでいて、夕日に照らされてキラキラと光っている。 「俺さ、ぶっちゃけ……彼女といた時も思ってたんだよ。あきとならもっと楽しいだろうな、とかあきならこうだろうなとかさ。」 「……」 「彼女といるよりお前といる時の方が安心できた。たぶん、知らないうちに俺もお前のこと好きになってたんだと思う。」 「な、おくん……」 「調子のいいこと言ってると思われても仕方ない。けど、今日まで全然連絡着かなくて、何処にいるのかもわかんなくて、不安で……あきが居なくなるって事自体俺には耐えられなかったんだ。」 瑛にも自分にも言い聞かせるようにゆっくりと直は話し続けた。 「なぁ、あき。俺の事許せないかもしれないけど……これから一生分、全部をかけてあきの事幸せにするからさ……」 直は瑛の元へ歩み寄り、そっと抱き寄せる。 「離し……っ」 また逃げようと身をよじる瑛を離すまいと力を入れて抱きしめ、優しい声で囁く。 「気持ちの整理ついたらでいいから俺と付き合ってください。」 思いもよらない直の言葉に瑛は呆然とした。言葉が上手く出てこなくてまた涙を溢れさせた。 ポロポロと次から次へと瑛の目からは大粒の涙が零れ、直の服を濡らした。 「なおくん……なおくんっ」 ゆっくりと瑛の手が直の背中に回る。 キュッと服を掴んだその手が少し震えている。 「ほんと、に……」 「うん。ホントに。自分でも驚いてるんだよ。さっきだって、あきを見つけて必死に走った。もういい歳なのに、こんな必死になる事なんてあるか?」 いつもそばに居た。いつでも笑ってくれた。 辛い時もそばに居て、喧嘩もした。それでも居心地が良くて安心出来たのはやはり相手が瑛だったからだ。いつでも話を聞いてくれるという安心感から何でも話をして、聞きたくなかった話も沢山した。その時の瑛の気持ちは計り知れない程に悔しくて、悲しくてやるせなかっただろう。 憶測にしか過ぎないがもし自分が反対の立場だったら耐えられないと直は思った。 カッコ悪くてもいい、悪あがきだと言われてもいい、今更何のつもりだと言われても仕方ない事だけど……それでも今自分の胸の中で泣いている瑛を手離したくないと思った。それと同時に、もう泣かせない、いつでも笑っていられるようにしようとも思った。 「今度はさ、俺もあきのこと支えるからさ。」 「ん……」 鼻をグズつかせながら瑛が直を見上げる。その目は赤く少しだけ腫れていた。 「あき、すげぇブサイクな顔になってる」 「う、うるさい……誰のせいだよ。」 「俺?」 「他に誰がいるってんだよ……」 少しだけむくれたように口をとがらせる。その仕草が余りにも可愛くて直は瑛をもう一度自分の方へ引き寄せ、キスをした。 「んっ……」 「んぁっ……待つんじゃ、なかったの?」 「そのつもりだったんだけど……あきが可愛いから。」 「なっ……」 突然のキスに、口説き文句。余りにも驚かされることが多くて瑛は目をぱちくりさせて直を見るしか出来なかった。 「ごめんな、待つとか言ったけど……我慢出来なかった。」 すまないと付け加えて直はまた瑛を抱きしめた。瑛もそれに応えるよえにぎゅっと抱きしめる腕に力を込めた。 ここから直と瑛は恋人として一緒の時を過ごすようになった。 《終》
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