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男はお礼を口にして、目の前に出されたものを反射的につかんだ。
それは小さな白い小箱だった。
はて、こんなもの落としただろうか?
男は首を傾げつつ、自分に声をかけた者を確認しようとした。しかし、混雑したホームでは箱を渡したのが誰であったか判然としなかった。
男はそれをかばんに放り込むと会社へ向かった。
案の定遅刻しても、誰もなんにも男には反応しなかった。
家に帰って、夕飯をすませ、犬の散歩をしたあと、風呂に浸かる。そこで男はようやく今朝の出来事を思い出した。
かばんの中をのぞくとひしゃげた小箱が顔をのぞかせた。
箱を開けてみると、中に入っていたのは一粒の小さな種だった。黒色で、涙型のそれは、ひとたび手から離せば、あっという間になくなってしまいそうだった。
こんなものおれは落としていない。人違いじゃないか。男は箱を丁寧に折りたたみ、種と一緒に捨てようとした。
そこで、箱の中にこれまた小さく折りたたまれたメモを見つけた。
広げるとそこにはこう書かれていた。
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