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誰からの手紙だろう?
ぼくは、朝食のコーンフレークを自分と頭のブルーの口に交互に入れながら、母を観察する。
嬉しそうに読んでいたと思ったら、一転悲しい顔になり、手紙をぐしゃっとして封筒に戻し引き出しにしまった。
母は、無表情でコーンフレークをボリボリ食べ出した。
白い封筒が誰からなのか、とても聞ける雰囲気ではない。
ボリボリ、ボリボリ、噛む音がいつもより大きく感じた。
母は、女手一つでぼくを育ててくれている。
父は、ぼくが2歳くらいのころから家に居ない。
母曰く、父は政府の大事な仕事で、船で遠くの島に行っている、とのこと。小さい頃はそれを信じていた。
しかし、父は半漁人である。『船で遠くに……』って言うのもひっかかる。自分で泳げるだろうし、何より十年も音沙汰ないのはおかしい……。
母に父の話をするのは、なんとなくタブーなのが暗黙の了解である。
父に関するぼくの記憶は一つだけ。
いつもと違う目線の風景の記憶がある。
あれは肩車をして散歩をしてくれたのだと思う。楽しかった感覚を覚えている。つるっぱげの頭の感触とともに……。
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