第二章 深まる謎

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「またあんた達? 性懲りも無く来たってわけね。その図太さは認めてあげるわ」 3人がウォーマルの住処に足を踏み入れるや否や、ウォーマルの皮肉が出迎えてくれた。 「今日、あたしらはここであんたを倒す。必ずな」 「ふっ、やってみなさいよ。ま、無理だろうけど」 「その減らず口もここまでだぜ。セシル、やるぞ」 ザンドラがそう言うが、セシルからの返事がない。 不思議に思い、ザンドラがセシルの方を見れば、セシルはただ、ウォーマルを見つめていた。 「セシル……?」 「……姉ちゃん」 セシルのその言葉に、レオとザンドラは目を見開いて驚いた。 「姉だと? ウォーマルが? セシルの?」 「あらぁ? 私にはそんな記憶は無いのだけれど」 「忘れてるだけだ、姉ちゃん。記憶を封印されたんだよ……」 セシルの表情を見るに、ウォーマルが姉だということは間違いじゃないらしい。 「……セシル」 ザンドラの声に、セシルはゆっくりと振り返った。 「もう、戻らねぇぞ。男なら、安らかに眠らせてあげる覚悟をしろ」 「っ……」 唇を噛み締め、下を向くセシル。 その目には微かに、涙が溜まっていた。 レオがセシルに近寄り、屈んで目を合わせる。 「俺らがいるだろ。な? 師匠」 「……」 セシルは何も答えずに、数秒後、セシルの手に力が集まる。 そして出したのは、水球。 それを見たザンドラは、ニカッと微笑んで言った。 「その意気だぜ、セシル!」 「姉ちゃん、俺が救うからっ……!」 セシルの目には、未だに涙が溜まっているものの、映っているのは悲しみではなかった。 セシルが出した水球に、ザンドラが雷を纏わせる。 何百回もの練習が糧となり、雷は水球全体に纏い、見事にウォーマルに当たった。 「っく……この短期間で、中々練習したようね。だけど、まだまだよ!」 セシルとザンドラに向けて、ウォーマルの手から水弾が出される。 速く、大きい弾だ。 2人はそれを間一髪で交わしながら、水球を出し、雷を纏わせて投げる。 「あんたも中々だけど、1つ見落としてるぜ!」 「見落とし……? どういうこと?」 「行け、レオ! お前の見せどころだ!」 セシルがそう叫んだ時、ウォーマルの後ろからとてつもない力を感じる。 レオは力を溜め、一気に解放させる。 と、確かにレオの周りに、火の力が纏っていた。 「女性を殴るのは趣味じゃねぇけど……分かってくれるよなっ!」 「そんな、まさかっ、私が火属性の奴にやられるなんてっ……!」 その時間、僅か一瞬。 ウォーマルの目の前には、火を纏ったレオの拳が迫っていた。 ウォーマルは派手に飛ばされ、壁に激突し、めり込んだ。 「ふ、ふふっ、あははははっ! まさか、この私が火属性の奴にやられるなんてね! 想定外だったわ……レオ、貴方を見くびってたわ。許してちょうだいね」 レオはその言葉に、火の力を消しながら頷いた。 「姉ちゃんっ……!」 セシルがウォーマルに駆け寄りながら、そう言った。 堪えきれなかったのか、セシルの顔は涙でぐちゃぐちゃになっている。 そんなセシルに、ウォーマルは申し訳なさそうな笑みを浮かべた。 「ごめんなさいね。どうしても、貴方のことは思い出せないわ。だけど、何だか懐かしい感じがする。優しくて、暖かい感じ。それは私達が姉弟だからだということも、記憶が無くても分かる」 「姉ちゃん……」 ウォーマルの傷だらけの右手が、セシルの頬に触れた。 「大丈夫。貴方ならきっと、私が居なくても生きていけるわ。それに、力強くて仲良しな仲間がいるじゃないの。だから、ほら。もう泣かないの」 ウォーマルが指で、セシルの涙を拭う。 「いつまでも見守っているわ、セシル」 その言葉を最後に、ウォーマルは息絶えた。 「姉ちゃんっ……」 未だにセシルの頬に置かれた右手を掴み、強く握り締める。 ザンドラがセシルの肩を優しく叩いた。 レオが横にいるのを、セシルは感じ取った。 ウォーマルの言う通り、セシルは1人ではないのだ。 セシルは溢れ出た涙を必死に拭い、レオとザンドラを見る。 「ありがとう、2人とも。本当に、助かったよ」 「当たり前だ! 師匠は大切な仲間だからな!」 「レオの言う通りだ。それに、またセシルの料理、たらふく食べたいしな!」 こんな時でもお調子者のザンドラに、セシルは笑みを零した。 「さ、帰ろう! セシル、レオ!」 「帰ったら師匠の料理でお祝いだなー!」 「お前らは本っ当に……」 セシルが苦笑いすれば、レオとザンドラは見合って笑った。 レオの目には、強い絆が映っていた。
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