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勢いのみで家を出たものの、レオとセシルの2人はザタゼブル地区に来たのは初めてで、行くあても勿論無かった。
「久しぶりだな。こうやって行くあてもなく歩くのは」
「師匠と二人きりってのも、何だか懐かしいぜ」
2人はそんな会話を交わしながら歩いていると、道の横にある木が数本倒れているのを見た。
「これは……」
「ザンドラの仕業だろうな。木についた傷が似てる」
「ザンドラはいつここにいたんだろう……」
木についた傷を撫でながら、レオがそう呟く。
そんなレオに、セシルが元気付ける様に言った。
「まだそんな離れてないだろ。追いつくさ」
「……うん、そうだね」
辺鄙な道を少し足早に歩く2人。
その道は少し坂になっており、それを超えれば、目の前には街が広がっていた。
すごく発展している様子で、遠くからでも人が忙しなく動いているのがわかる。
「あの街で情報収集してみよう」
「……うん」
レオは街というものが初めてなのか、少し緊張した様子でその光景を眺めていた。
街に入れば、会う人誰もが歓迎してくれた。
「あら、旅人のお方? あそこにある酒場はすごく美味しいからオススメよ!」
「そこの旅人さん! こちらの宿に泊まっていかないかい?」
そんな皆の様子を、レオは物珍しそうに見回していた。
「どうした、レオ?」
「てっきり追い返されるかなって……でもいい人たちみたいでよかった」
セシルの問いに答えた後、レオはそう言って安堵した。
とりあえず、とセシルとレオの2人は、先程オススメされた酒場に行ってみることにした。
「美味しい料理も食べたいし、酒場なら情報も集まるかもしれないからな」
「うん、そうだね」
酒場への扉を開けば、酒を持った男たちがどんちゃん騒ぎをしているのが見えた。
セシルとレオの元に、酒場の店員であろう女性が近寄ってきた。
「こんにちは! 旅の方?」
「ああ。ここで何か食べたくて来たんだが、席は空いてるか?」
セシルが店員に問うと、店員は「もちろん! ついてきて!」と言って、奥へと歩いていった。
セシルとレオがついて行き、席に座ると、店員が「飲み物は何にする?」と聞いた。
「俺は水でいい。レオは?」
「えーっと……」
レオが何にしようか悩んでるところに、店員が声を掛ける。
「オレンジジュース、あるわよ」
「じゃ、じゃあそれでっ!」
レオが勢いよくそう答えると、店員は控えめに笑ったあと、奥の厨房へと走っていった。
セシルも少し笑っているところを見て、レオは顔をふくれさせた。
「子供っぽいって思ってんだろ、師匠」
「いやいや、思ってねぇよ。ただ……」
セシルはそこで言葉を止めた。
「ただ、なんだよ」
「大人になってきてるなぁっと思ってな」
「はっ? それどういう事だよ!」
レオが聞いても、セシルは「自分で考えな、お子ちゃまさん」とあしらう。
そんなセシルを、ぽこぽこと軽く殴るレオ。
久々に来た平和に、セシルは誰にも気付かれないように息を吐いた。
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