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頼んだ飲み物は、数分もせずに来た。
「注文が決まったら、呼んでちょうだいね!」
店員の女性はそう言って、次の注文を取りにその場を離れた。
セシルは水を一口飲んだあと、レオに話しかける。
「こんなに沢山人がいれば、ザンドラを見た人もいるかもしれないな」
「でも、全員に聞くのは骨が折れるよ……」
オレンジジュースを少しづつ飲んでいるレオの言葉に、セシルは「確かにな……」と呟いた。
「何か、この街の見回りをしているやつとか居ればいいんだが……そんな都合よくいるわけないよな……」
「チッチッチッ、あめぇな兄ちゃん。この酒場は街一番の酒場だぜ? いるに決まってんだろ」
セシルが困ったように言った後、後ろから男の声がし、セシルは肩を震わせ、後ろを見た。
「おどかすなよ……」
「へへっ、すまねぇすまねぇ。ここ、座ってもいいか?」
その男がもう一つの椅子を指差し、セシルが「構わんよ」と言うと、男は椅子にどかっと座り、机に勢いよく置いたコップからは酒が零れた。
「それで、ここに見回りしているやつがいるってのは本当なのか?」
「ああ、本当さ」
「なんでそんなに言い切れるんだよ」
男が戸惑うこともなく言ったのに対し、レオがまだオレンジジュースをちびちびと飲みながら質問した。
「なんでって、俺がその見回りをしているやつだからだよ」
「えっ、あんたが?」
男のこの言葉に、流石のセシルでも素っ頓狂な声を出して言葉を返した。
男はそんなセシルの様子は気にも止めず、酒を一口飲んだあと、「ああそうさ」と言った。
「それよか、俺に聞きたいことがあるんじゃねぇのか?」
その男の言葉に、セシルは思い出したように「ああ、そうだった」と声を出した。
「最近ここで、ザンドラという女性を見かけなかったか?」
「ん?お前さん今何つった?」
男は聞き間違いかとでも言うように、セシルに聞き返した。
「……ザンドラという女性を、見なかったか?」
「ザンドラだぁ……? そんな忌々しい名前、また聞くことになるとは思わなかったぜ」
男はその名前を聞くと、表情が一変し、酒を一口飲んだあと、ため息をついた。
「忌々しい、とは?」
「お前さんら、なんでそいつを探してるんだ?」
セシルの質問も無視し、男はそう問うた。
セシルもレオも、異様な雰囲気を感じ取ったのか、男の質問にちゃんと答えようと思い、口を開いた。
「俺らの仲間だ。ある日突然、姿を消してしまった」
「そうか……あんたらの経緯については何も聞かねぇが、あいつと関わるのはやめておいた方がいいぜ」
「な、なんでそんなこと言うんだよ。何か、根拠があんのか?」
自分の仲間が酷く言われていると察したのか、レオが口をとがらせながらそう聞いた。
「あいつは……元々死刑囚だったんだよ」
「ザンドラが、死刑囚……?」
「お、おい……それ、どういう事だよ!」
レオが声を荒らげると、男は仕方ないとでもいうようにため息をついた。
「あいつはこの街の主人、サンバダの家族らを意識不明の重体にさせた張本人さ。問答無用で死刑されるはずだったんだが、あいつがサンバダに言ったんだ。「あたしに勝てば、大人しく死刑を受け入れる」ってな。サンバダは突っ張りがお気に入りでな、あいつの挑戦状を受けたんだ。勿論、サンバダが勝った。だが、サンバダはあいつのことを気に入ったのか、死刑にはしなかった。その代わり、ザタゼブル地区からは永久追放されたってわけだ」
長々と続いた説明を、セシルとレオは真剣に聞いた。
2人は未だに受け入れられないでいた。
あのザンドラが死刑囚?サンバダの家族らを意識不明の重体に?
果たしてあいつは、そんなことが出来るやつだったか。
確かに、あいつは少し乱暴で、猪突猛進なところがあったが、自分の意思で人を無意味に傷つけるようなやつじゃなかったはずだ。
「それは、本当の話なのか………?」
セシルがゆっくりとそう言えば、男は容易く頷いてしまった。
「あいつのお仲間さんだったからショックだろうが、この話は本当だ。だから、あいつとは関わらねぇ方がいい。俺からはそれしか言えねぇ」
「ちょ、ちょっと待て!ザンドラはどこに行ったんだ、見回りをしてるなら、見てるはずだろ?!」
レオの言葉に被せるように、男は見たこともないような形相で、レオにこう言った。
「俺はあいつを見なかった。ほんの少しも。見たとしたら、俺はもうここにいねぇ。あんな恐ろしい死刑囚がこの街にいるなんて知ったら、みんな逃げ出すだろうさ。俺の答えはこれ以外にねぇ。もう話は終わりだ、坊ちゃん」
男は有無を言わせない凄みを出しながらそう言って、去っていってしまった。
この男と話して、セシルとレオは、ここではザンドラの情報は掴めないと悟った。
そう絶望している2人のところに、一人の男が来た。
「おい、あんたら」
「………今度は誰だ。もう望みはねぇぞ」
レオがゆっくりと声のした方向を見る。
その目を見て、望みを見出した。
その声の主の男の目の色は、茶色だ。
つまり、この街出身ではないということ。
「ザンドラがどこに行ったか知りたいんだろう?」
「知ってるのか………?」
セシルがそう問えば、男はしっかりと頷いた。
「ただここでは話せない。この酒場から出て右方向の3つ目の家屋が俺の家だ。俺はそこで待ってるから、ここで飯を食った後、家に来てくれ」
男はそう告げたあと、酒場を出ていった。
「………師匠、まだ望みはあるよ」
「ああ、そうだな。それよりも、あの男の言った通り腹を膨れさせよう」
セシルの提案にレオは頷き、料理を頼むためにメニューに手を伸ばした。
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