8/8
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/135ページ
 嫌みとも取れる彼女からの返信。豊富なら、もっと上手に恋愛を楽しんで、そろそろ結婚ぐらい決めてる歳かも知れない。    でも、二十九年生きて来たからこそ、学んだこともある。まずは、本当に好きな男なんて、そうそう表れないってこと。例えば表れたとしても、チャンスを逃してしまえば、永遠に気持ちは伝えられないってこと。    きっとこの娘も、あの時のわたしのようにチャンスを逃してしまうのかも知れない。そう思ったら、なんだか自分のことのように悲しくなった。だって彼女の心境は、あの日の自分と酷似している。    わたしは彼女にメールを打った。 「ねぇ、アナタ、ダメ元で彼に告白して来なさいよ」 「今更、もういいよ。あきらめたから」 「いいえ、ダメだよ!アナタ彼のこと好きなんでしょう?」 「だから、もうその話はいいって」 「良くない。いいから答えて!彼のこと好きなんでしょう?」    少しの間、止まる返信。やがて受信音が鳴った。 「好きだよ。こんなに誰かのこと、真剣に想ったのは初めてだよ。本当は苦しくて、たまらないよ」    瞬間、彼女の言葉に昔の自分が蘇る。そう、わたしも健吾をこんな風に想っていた。 「だったら、あきらめたらダメなんだよ。一生後悔するんだから!」  送信ポタンを押すと同時に、頭の中に健吾の笑顔が浮かぶ。また、じわりと目頭が熱くなった。 「だって、もう友達と両想いになってるかも知れないし、親友だから気まずくなりたくないよ」 「わたしもね、昔そう思ったよ。だけど、好きな気持ちは消えない!残ったのは後悔だけだった」 「昔って、お姉さんも、もしかして、わたしみたいな経験したことがあるの?」 「うん。信じられないかも知れないけど、わたしも高一の時、今のアナタと同じ経験をしたことがあるんだよ。だから、人ごとに思えない」 「わたしと同じ年の頃に、今もその人のこと好きなの?」    彼女からの質問に、堪えていた涙が一筋、類を伝った。 「好きだよ。死にたくなるほど好き」 「なら、どうして気持ちを伝えないの?」 「それはね、彼が、もう伝えたくても伝えられない遠い場所に逝っちゃったからだよ」    彼女からの返信はない。わたしは続けて彼女にメールを打った。 「もしも、その彼が明日死んじゃうとしたら、アナタは一生、彼に告白できないよ。そして、ずっと悔やみ続けることになる」
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!