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「で、なにに道がそれたの?」 梓に話しの続きを振る。 今度は前をちゃんと向いたまま、梓は語り始めた。 「あたしが東京に出てきたのって、三年前なんだけど、上京した目的はね、メークアップアーティストになりたかったからなのよ」 「メークアップなんとかって、女優とかモデルとかのメイクする人?」 「そうそう、正解。でさ、一応先生に弟子入りして頑張ってたんだけど、過酷な上に給料も安くて、やっぱ田舎に帰ろうかな、なんて悩んでたのよ。そんな矢先にさ」 「そんな矢先に?」 「出逢ってしまったの。運命の人に!」 「運命の人って、まさか男?」  男と発した自分の言葉に、なぜか眉根がピクリと動いた。梓は、わたしの問いに深く二回頷く。更に詳しく聞くと、付き合い始めてから、まだ三ヶ月も経っていないとのことだった。    しかし、ここからが問題だった。まず彼は、二十八歳にしてバイトで食い繋いでいる、自称、お笑い芸人だということ。まあ、人それぞれの生き方を批判するつもりはないが、この後の梓のとんでもない一言で、わたしは一気に彼の批判に走った。 「結婚?梓、貴女、頭がおかしくなっちゃったんじゃないの?バイトで、その日暮らししている男と本気で結婚なんて考えてるの?」 呆れて首を横に振る。 「そんな男と結婚したって苦労するだけよ。幸せになんてなれないわ」    すると梓は、キッとわたしを睨みつけた。 「そんな言い方酷いわ!今はそうでも、彼にはお笑い芸人としての才能があるのよ。きっと、いつか売れっ子になるわ。その日が来ることを、あたしは信じてるの」 興奮気味にそう言い返す。 「そんな夢みたいなことを」わたしは、溜め息まじりに車内の天井を見上げた。    気まずい沈黙が二人の間に流れる。そんな雰囲気のまま梓は、燃料切れだと一言ぼやいて、間もなく見えて来たガソリンスタンドにハンドルを切った。    やたらと笑額でフロントガラスを拭く店員を、二人無言のまま眺める。給油が終わると、再び車を発進させた。だが少し走ると、梓は急に泣き出して車を端に寄せ、停車させた。 「信じてるって言ったけど、本当はあたしだって不安なんだよ。だけど彼のこと愛してるの。お腹の子供だって産みたいんだよ!」 「子供?」わたしは目を丸くさせて梓を見た。 「ちょっと待って、貴女、妊娠してるの?」 「うん、まだ病院にはいってないけど、自分で検査したら陽性だった」 「彼には報告したの?」
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