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「さっき進ちゃんのバイト先まで行って報告してきた」 「進ちゃんっていうんだ、彼の名前」 「うん。澪さんとさっき逢った場所から少し先の、モンテカルロってレストランで、十八歳で上京してからずっとバイトしてるんだって」 「そう、で、進ちゃんはなんて?」 「産んで欲しいって、結婚しようって言ってくれた」       梓の濡れた瞳が輝く。心から人を愛することを知った者だからこその輝きなのかも知れない。 「そうか。だけど叔父さんと叔母さん、説得できるかな?」 「それは大丈夫だと思う。割とうちの両親、理解あるから」わたしの質問に梓は微笑む。「それより、もっと怖い人がいるよ」 「怖い人?」 「うん。小学生の時、道端でクラスの男子と話してるだけで怒り狂ってた人」 「まさか」 瞳を大きく見開いたわたしをみて梓が首を縦に振る。「うん、お兄ちゃんだよ」 「健吾」 瞬間、胸の奥に熱いものが込みあげた。名前を口にしただけで涙腺が震えだす。 「あたしが今も怖いのは、天国にいるお兄ちゃんだけ。ねぇ澪さん、お兄ちゃんが生きてたら、今のあたし、完壁にただじゃ済まなかったよね?」   梓の問いに、わたしはためらうことなく答えた。 「梓というより、進ちゃんが半殺しにされてたね」 「フフッ、お兄ちゃん、厳しかったからなあ〜」  梓はそう言って笑ったけど、瞳は、どこか虚ろに遠くを見ていた。    梓と健吾のことを語るのは、今日で二回目になる。一度目は、健吾の三回忌が終わった後のお寺からの帰り道だった。健吾の三回忌は、親戚のみならず、担任教師とサッカー部の顧問始め、沢山のクラスメイト及び、部活仲間が訪れた。亡くなってから年数が経過しても、彼の存在は色あせることなく、皆の心の中で輝き続けていたのである。 「お兄ちゃんがいないなんて、やっぱり信じられないよ」と泣きじゃくる梓を、あの時わたしは力一杯に抱き締めた。抱き締めながら「もういい加減、認めようよ」なんて、偉そうなことを口走っていた。信じられないのは、自分だって一緒だったくせに。 「澪さん、ごめんね。嫌なこと思い出させちゃって」ハンドルにもたれながら梓が言う。 「ううん、そんなことないよ」  わたしはかぶりを振った。 「だけど、あの事故で亡くなった人は沢山いたんだよね。澪さんの親友だった由奈さんだって、亡くなってしまったし」
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