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 だが、彼らは今や、日本中では知らない人がいない程、売れに売れまくっている芸人なのだ。 がに股光線で、地球征服を企む直立団を倒す、がに股大使は、皆をがに股にしながら幸せを運ぶ。彼らが生みだしたギャグである。    この、がに股大使のマネが子供達の間でブームになっているようで、毎朝、見かける登校中の子供は、皆、がに股で歩いていた。くだらないと思っても観てしまう。これが人気の秘訣なのか?梓の彼も、これをいち早く世に出していれば、今頃きっとバイト生活ともおさらばしていたはずだ。    次に登場した芸人のネタに大笑いしながら、わたしはそんなことを考えていた。とにかく今夜は笑いたい。シーンとした静けさが怖かった。 (それはなぜ?)と、自分に問いかけてみる。 (半年付き合ってた彼に振られた夜だから)きっとそれが理由だろう。実際にショックだったし、彼の言葉に傷つきもした。だけど良く考えてみると、彼のことを本当に愛してたのかな?  とも思う。  そろそろ歳だしとか、目的もなくただ惰性のように流されていく毎日に、正直、飽き飽きしていたのも事実だ。  もしかしたら、わたしはただ結婚に逃げたかっただけなのかも知れない。だから比較的条件のよかった彼と付き合ったのかな、とも思ってしまう。もし、彼が自分との恋愛関係の中で、それを察知していたとしたら? 「振られて当然かあ〜」 わたしはソファーにもたれかかりながら天井を見上げた。 (純粋に身体が熱くなるほど、人を愛しいと思ったのはいつだろう?)そっと瞳を閉じてみる。すると、当然のように浮かびあがってくる一人の顔があった。    健吾、わたしはあの日から、何度貴方のことを思い浮かべては涙して来たのだろう。  どんなに忘れようとしても忘れられない想い。どんなに時が経とうともセピア色に変わらない。変わってくれない思い出。わたしの感情は、全てあの日に氷ついて、今もひたすら眠り続けている。そんな気がするんだよ。    親友だった由奈の気持ちを知って告白を断念した次の日、バスの転落事故は起こった。  目を開いて立ちあがると、わたしは本棚の下段から一冊のアルバムを手に取った。何年か振りに開くと、そこには高校の制服を着て、肢しい位に笑っている自分がいた。だけど、その両横で微笑んでいる二人は、もういない。いくら泣いてもわめいても、二度と帰って来てはくれないのだ。  わたしは、そのバスの転落事故で、親友と愛する男(片想いだったけど)
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