28人が本棚に入れています
本棚に追加
/135ページ
だが、彼らは今や、日本中では知らない人がいない程、売れに売れまくっている芸人なのだ。
がに股光線で、地球征服を企む直立団を倒す、がに股大使は、皆をがに股にしながら幸せを運ぶ。彼らが生みだしたギャグである。
この、がに股大使のマネが子供達の間でブームになっているようで、毎朝、見かける登校中の子供は、皆、がに股で歩いていた。くだらないと思っても観てしまう。これが人気の秘訣なのか?梓の彼も、これをいち早く世に出していれば、今頃きっとバイト生活ともおさらばしていたはずだ。
次に登場した芸人のネタに大笑いしながら、わたしはそんなことを考えていた。とにかく今夜は笑いたい。シーンとした静けさが怖かった。
(それはなぜ?)と、自分に問いかけてみる。
(半年付き合ってた彼に振られた夜だから)きっとそれが理由だろう。実際にショックだったし、彼の言葉に傷つきもした。だけど良く考えてみると、彼のことを本当に愛してたのかな? とも思う。
そろそろ歳だしとか、目的もなくただ惰性のように流されていく毎日に、正直、飽き飽きしていたのも事実だ。
もしかしたら、わたしはただ結婚に逃げたかっただけなのかも知れない。だから比較的条件のよかった彼と付き合ったのかな、とも思ってしまう。もし、彼が自分との恋愛関係の中で、それを察知していたとしたら?
「振られて当然かあ〜」
わたしはソファーにもたれかかりながら天井を見上げた。
(純粋に身体が熱くなるほど、人を愛しいと思ったのはいつだろう?)そっと瞳を閉じてみる。すると、当然のように浮かびあがってくる一人の顔があった。
健吾、わたしはあの日から、何度貴方のことを思い浮かべては涙して来たのだろう。
どんなに忘れようとしても忘れられない想い。どんなに時が経とうともセピア色に変わらない。変わってくれない思い出。わたしの感情は、全てあの日に氷ついて、今もひたすら眠り続けている。そんな気がするんだよ。
親友だった由奈の気持ちを知って告白を断念した次の日、バスの転落事故は起こった。
目を開いて立ちあがると、わたしは本棚の下段から一冊のアルバムを手に取った。何年か振りに開くと、そこには高校の制服を着て、肢しい位に笑っている自分がいた。だけど、その両横で微笑んでいる二人は、もういない。いくら泣いてもわめいても、二度と帰って来てはくれないのだ。
わたしは、そのバスの転落事故で、親友と愛する男(片想いだったけど)
最初のコメントを投稿しよう!