28人が本棚に入れています
本棚に追加
/135ページ
「びっくりした!まさか送信できるなんて思わなかったし、返信が来るとも思わなかった」
(やっぱり)と思った。この人は、過去の自分のアドレスにメールを送ったんだ。
梓といい、こんなことをしてなんになるのだろう?
「アナタ、前に使っていたアドレスにメールを送ったんでしょう?」
喉にこもる笑いを噛み殺しながら送信ボタンを押す。
「そうよ。その通りよ!どうしてわかったの?」
「知り合いがね、同じことをして知り合った男と付き合ってるのよ。今、こういうの流行ってるのかしら?」
「さあ、わからない。でもわたしは男じゃないからアナタとは付き合えそうもないわ」
「そう、でもわたしが男かも」
「わたしっていう男、ゲイ?」
「アハハッ!」
思わず声をだして笑った。中々面白そうな人だ。
「違うわよ。わたしは正真証明の女よ。しかも、もうすぐ三十路で結婚もできない寂しい女よ」
送信後、見知らぬ他人にこんなことを教えてどうなるのだろう。ふと、そう思った。すぐに彼女からの返信が届く。
「あら、可哀想。でも安心して、わたしの方がもっと寂しい女だから。四十五才で独身。これまでの人生を振り返っても、ろくなことがなかったわ」
「そうなの?」
本当なら、明らかに彼女は今の自分より寂しそうだ。意味のない安心感と同情が入り交じった不思議な気持ちになる。
「そうよ。アナタのメルアド使ってた時も、寂しくてよく泣いてたわ」
「嫌だわ、今のわたしと一緒ね。アドレスが悪いのかしら?」
「失礼ね。そのアドレス、わたしのイニシャルと誕生日の組み合わせよ」
「えっ、ちょっと待って、その組み合わせ、わたしと一緒だよ!」
「そうなの?もしかしてアナタの誕生日って、十月三十一日?」
「そうよ!十月三十一日、サソリ座よ」
凄い!わたしと一緒だ。
「ねぇ、アナタ名前は?もしかして一緒だったりして」
そこまで書き込み(いやいや、そこまで偶然はないだろう)と首を横に振る。だけど、もしかしたら。
「わたしの名前は、朝倉澪っていうのよ」そう書き込み完了して送信を押した。なんとなくワクワクする。 だが、そのメールは届かず、すぐに宛先不明の文字が画面表示された。
最初のコメントを投稿しよう!