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「あれ、どうして?」  さっきまでちゃんと送信されていたはずなのに?首を傾げながら、もう一度送信ボタンを押す。だが、またメールは送信されずに戻って来てしまった。それは何度繰り返しても同じで、彼女とわたしを繋いでいた糸は、突然プツリと切れてしまった。 「なんなのよ、これからいい所だったのに!」    無性に腹がたって、わたしは携帯をソファーの上に叩きつけた。爪を噛みながら部屋の中を、意味もなくウロウロと歩き回る。お気に入りのオモチャを取りあげられた子供の気分だった。だが、やがて立ち止まった。いいことを思いついたのだ。    再び携帯を手に取るわたし。彼女と同じことを試してみようと思った。過去のアドレスならよく覚えてる。    初めて親に携帯を持たせて貰った高一の頃から五年前まで、わたしはずっと同じメールアドレスを使っていた。迷惑メールが頻繁に続くようになったので変えたのだが、本当は変えたくなかった。過去のアドレス。それは、健吾とわたしのイニシャルと出席番号を組み合わせたものだった。少しでも彼と繋がっていたくて決めたアドレス。事故後も変えることができなかったのは、やはり未練からだったと思う。    わたしは、そのアドレスに「アナタは今、幸せですか?」と書き込んで送信ボタンを押した。送信されましたの画面表示。 「凄い!わたしの過去アドを使ってる人がいるんだわ」 携帯を胸に抱き、なぜか妙に嬉しくなってスキップした。こんな偶然が本当にあるものかと思う。    果たして相手から返事は来るだろうか?ドキドキしながら待つ。だが、いくら待っても受信音は鳴らない。 「ダメかあ〜」 溜め息をつきながら、ディスプレーの右上に表示されている時刻に視線を滑らせた。午前六時十分。 「あー、もう朝かぁ」 携帯をテーブルの上に置いて立ち上がる。聞こえてくる雀の鳴き声にカーテンを開いた。眩しい光に目を細めながら伸びをする。今日は日曜日。平日でなくて本当に良かったと思う。一睡もしないで出動ってのは、正直、三十路手前の老体には、かなり厳しいムチだ。 「寝るか」 わたしはそう咳くと、ベッドのタオルケットを捲りあげた。  その時、背後からメロディーが開こえた。 (まさか!)慌てて向きを変えて携帯を掴み取るとメールを開く。  期待通り、過去アドを使っている誰かからの返信であった。 「アナタ誰?送り先、間違えてるよ」と書いてある。 (凄い。感動だ!胸が震える)健吾と自分のイニシャルと出席番号のの組み合わせをアドレスにしている主からの返信なのだ。
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