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            彼女からのメールを澪は、無言で見詰めていた。 (もしも明日、健吾が死んじゃうとしたら?) 「嫌だ。そんなことある訳ない!」 首を左右に振った。  だけど、お姉さんの好きだった人は死んだんだ。そして、彼女はずっと悔やんでる。    澪は唇を噛み締めると、勢い良くベッドから立ち上がった。部屋の木製扉を開く。合宿所から外に出ると、グラウンドの中央にキャンプファイヤーの炎が見えた。それを囲むように、まだみんなは花火を楽しんでいる。ロケット花火の音と共に、テニス部女子達の甲高い悲鳴が聞こえる。サッカー部男子達の笑い声。ドラゴン花火を振り回し、女子の気をひいてる奴もいた。  それを横目で促し、澪は先程、健吾と由奈を見た湖畔のほとりへと向かう。 (まだ二人は、あの場所にいるんだろうか?) もしもまだいたとして、二人が両想いになっていたら、確実に自分は邪魔者になる。    湖畔に近づく度に怖くて足が震えた。でも、なぜか彼女からのメールが心に響いていた。 (あきらめたらダメ!)見ず知らずの彼女の言葉が、潮畔へと向かう澪の背中を後押しする。    木立ちに挟まれた、細く長い一本道。僅かな月明りだけで、視界は酷く悪い。時々、小枝を踏む音に両肩がビクリッと動く。間もなくすると、向こうの方から、こちらに向かってくる人影が見えた。    前に踏み出そうとした片足が止まる。瞬間、履いているスニーカーの靴底が、また細枝を踏んだ。パチンッと音をたてて折れる枝。 「誰?」 黒い人影から声が聞こえた。聞き覚えのある声。まさか「健吾?」澪は次第に近づいて来る人影に呼び掛けた。 「澪?澪なのか?」 月明りに照らし出される顔。 「やっぱり、健吾だ」 安心して口元を緩める。 「どうしたこんな所で、花火はもう終わったのか?」目の前に立ち、澪の目の高さまで腰を落とす健吾。顔を覗き込まれて、澪の頬は赤く染まった。    今が夜で、月明りしか照明がないことに心から感謝する。 「ううん、まだ終わってないけど、なんとなく湖畔を散歩したくなって」 慌てて下を向いて言い訳する。その直後、(違う、こんなことを言いに来たんじゃない!)と胸の奥が首を横に振った。 「散歩って、こんな暗い所を一人じゃ危ないだろ」 健吾はそう言うと、今来た道の方へクルリと向きを変えた。 「俺も付き合ってやるよ」 振り向いて笑顔を見せる。     健吾は意地悪だけど、いつもこんな風に優しい。百八十センチはある、彼の大きな背中を見詰めながら歩く澪。
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