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 高校に入学してから四ヶ月。自分は何度この背中に「好きです」と心の中で告白して来たのだろう?と数えてみた。 (ダメだ、とても十本の指では足りない)涙が益れそうになる。その時、健吾がふいに足を止めた。 「この景色見ろよ!スゲー奇麗だぜ!」 湖に指を差す。 「うわあーっ、本当だ!」 澪は思わず叫んだ。    キラキラと輝く水面に丸く映る灰かに青白い月は、ユラユラと揺れながら遊泳しているように見える。 「まるで、湖の中に月が沈んでるようだね」澪は水面の月に両手を伸ばす。 「本当に掴めそうだな」 健吾の指先も水面へと伸びた。 「ね、健吾、夢とか奇跡とかって、こんな感じかな?」 「夢?奇跡?」 「うん、掴めそうで掴めない」 「本当だ。お前、上手いこと言うなあ〜」 感心したように腕を組む健吾。 「あのさ、健吾の夢ってなに?」 澪は聞いた。前々から知りたいと思ってたことのベスト二位だった。一位は、考えなくても答えは決まってる。    その時、「俺の夢か?今はサッカー選手になることかな」彼が照れくさそうに答えた。 「おっと、大きく出たなあ〜」 澪が笑う。 健吾が唇をヘの字に曲げた。 「うるせーな、いいだろ!夢はデカイ方がいいんだ」 「お父さんの後は継がないの?」 「親父の後か、ラーメン屋は俺のなりたくない職業べスト一位だからな、ぜってぇー継がねえ!」 「叔父さん、可哀想」 声を大にして言い切る彼に、澪は苦笑した。 「だけど」健吾が真剣な表情をして口を開く。 「親父の作るラーメンは好きだし、男としても尊敬してる」 「うん、叔父さんの作るラーメンは、天下一品だもんね」深く深く頷ける。 「お前の夢はなんだよ?」 今度は健吾が澪に聞く。 (勿論、健吾のお嫁さん!)と、即答しそうになった口を慌てて止め「うーん、ちょっと良くわかんない」と、考える振りをして、首を捻ってみる。 「お前、テニス部なんだから嘘でもテニスプレーヤーとか言えよ」 健吾は笑いながらげんこつで軽く澪の頭を叩くと「だけど、あんなへっぴり腰じゃあ無理だな」と言った。 「ひどーい、わたしなりに頑張ってるのに!」 「だってお前、昨日も一昨日もっ……てか入部してから毎日上級生に叱られてるじゃねーか」    はい。まさにその通り、返す言葉もない。澪は膨れっ面のまま下を向いた。
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