28人が本棚に入れています
本棚に追加
「全く、そんなお前を毎日見てる俺の身にもなっくれよ」
健吾が、ため息まじりに呟く。
「えっ、毎日って?」
顔を上げる澪。
「えっ、あ、毎日じゃねーよ。たっ、たまにだ!」
健吾は慌てて否定する。
澪は再びうつ向いた。心臓の鼓動がトクンッと一つ波打つ。お互いに水面を見詰めたまま沈黙した。流れる気まづい時間。
「あっ、あのさ」
先に口を開いたのは健吾の方だった。「実はさ、俺さっきまで由奈とここにいたんだ」
彼の言葉に、さっき見た告白シーンが浮かんだ。
「あたし、健吾が好きなの!」由奈の声が生々しく耳に響く。
「でさ、由奈に告られた」
再び隣から聞こえた彼の声に、たまらず瞳をギュッと閉じる澪。
「おい、俺の話、ちゃんと聞いてる?」健吾が澪を見る。澪は睫毛と口角を上げた。
「ヘえ〜、良かったじゃん。由奈なら美人だし、勿論OKしたんでしょ?」
そう言うと、健吾に背を向ける。
次の答えが怖くて、まともに彼の顔を見ることができない。
その時「それ、本気で言ってる?」背後から彼の低い声が聞こた。
「だって普通はOKするでしょ?由奈なら美人だし頭もいいし性格だって優しいし」
本当に自分と違って、いい所だらけだ。言ってるそばから情けなくなって、奥歯がキリリッと鳴る。
「だったら俺は普通じゃねーな。断ったんだ、由奈の告白」
「えっ?」
彼の言葉に、澪は目を見開いた。
「どっ、どうして?」恐る恐る聞いてみる。
「俺、好きな女がいるんだ。入学式で一目惚れしてから、そいつしか考えられねーんだ。気がつけば、いつもそいつばかりを目で追ってた」
(健吾に好きな人!)瞬間、澪の胸に激震が走った。「なっ、なんで、どうしてそんなことわたしに言うのよ」
彼は残酷だ!耐え切れず、涙腺が崩壊を始める。
「そんな話、健吾の口から聞きたくない!」澪はそう叫ぶと、彼に背を向けて走り出した。
「待てよ!」健吾が澪の右手を掴んで引き留める。「ちゃんと最後まで話を聞け!」
「嫌だ、聞きたくない!」
強く掴まれた手がじんじんした。逃れようともがく澪。一刻も早く、この場所から立ち去りたかった。だが、彼の力にはかなわない。強引に振り向かされて両手を掴まれた。
「俺、この合宿で本当はそいつに告白しようって決めてたんだ。だけどこんなことになっちまって、さっきまで悩んでた」
「へえ、健吾の好きな人ってテニス部の人なんだ。悩むことないじゃない。告白したらいいじゃない!とにかく、もう聞きたくないの離して!」
最初のコメントを投稿しよう!