3/7
前へ
/135ページ
次へ
「全く、そんなお前を毎日見てる俺の身にもなっくれよ」 健吾が、ため息まじりに呟く。 「えっ、毎日って?」 顔を上げる澪。 「えっ、あ、毎日じゃねーよ。たっ、たまにだ!」 健吾は慌てて否定する。    澪は再びうつ向いた。心臓の鼓動がトクンッと一つ波打つ。お互いに水面を見詰めたまま沈黙した。流れる気まづい時間。 「あっ、あのさ」 先に口を開いたのは健吾の方だった。「実はさ、俺さっきまで由奈とここにいたんだ」      彼の言葉に、さっき見た告白シーンが浮かんだ。 「あたし、健吾が好きなの!」由奈の声が生々しく耳に響く。 「でさ、由奈に告られた」 再び隣から聞こえた彼の声に、たまらず瞳をギュッと閉じる澪。 「おい、俺の話、ちゃんと聞いてる?」健吾が澪を見る。澪は睫毛と口角を上げた。 「ヘえ〜、良かったじゃん。由奈なら美人だし、勿論OKしたんでしょ?」 そう言うと、健吾に背を向ける。  次の答えが怖くて、まともに彼の顔を見ることができない。  その時「それ、本気で言ってる?」背後から彼の低い声が聞こた。 「だって普通はOKするでしょ?由奈なら美人だし頭もいいし性格だって優しいし」 本当に自分と違って、いい所だらけだ。言ってるそばから情けなくなって、奥歯がキリリッと鳴る。 「だったら俺は普通じゃねーな。断ったんだ、由奈の告白」 「えっ?」 彼の言葉に、澪は目を見開いた。 「どっ、どうして?」恐る恐る聞いてみる。 「俺、好きな女がいるんだ。入学式で一目惚れしてから、そいつしか考えられねーんだ。気がつけば、いつもそいつばかりを目で追ってた」 (健吾に好きな人!)瞬間、澪の胸に激震が走った。「なっ、なんで、どうしてそんなことわたしに言うのよ」  彼は残酷だ!耐え切れず、涙腺が崩壊を始める。 「そんな話、健吾の口から聞きたくない!」澪はそう叫ぶと、彼に背を向けて走り出した。 「待てよ!」健吾が澪の右手を掴んで引き留める。「ちゃんと最後まで話を聞け!」 「嫌だ、聞きたくない!」 強く掴まれた手がじんじんした。逃れようともがく澪。一刻も早く、この場所から立ち去りたかった。だが、彼の力にはかなわない。強引に振り向かされて両手を掴まれた。 「俺、この合宿で本当はそいつに告白しようって決めてたんだ。だけどこんなことになっちまって、さっきまで悩んでた」 「へえ、健吾の好きな人ってテニス部の人なんだ。悩むことないじゃない。告白したらいいじゃない!とにかく、もう聞きたくないの離して!」
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加