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「そうか、なら告白するよ!」
健吾はそう言うと、掴んだ手に更に力を込める。そして、澪を直視した。
「俺、澪が好きだ!」
「えっ?」
瞬間、抵抗していた腕の力が止まった。
静まり返った湖畔のほとりに、夏虫の鳴き声が響く。
「いっ、今、なんて?」
うわずる声で澪は聞き返す。
「お前が好きだって言ったんだ」
健吾はきれ長の瞳を澪から反らさずに答えた。
「うっ、嘘だよ!健吾がわたしなんか好きになるはずがない」
つむじを左右に振る澪。
「なんだよ、それ、遠回しに断ってんのか?」
健吾は眉間にシワを寄せた。
「違うよ。だってわたし、ばっちりした二重じゃないもん」
「はあ?なんだ、それ?」
「鼻だって、だんごっ鼻だもん」
「お前、人が真剣に告ってんのにチャカしてんのか?」
「ちがっ」
この後に(輪郭だって下膨れだもん)とつけ加えたかったが、涙で視界がぼやけて言葉にならなかった。
「泣くな!」彼が涙にストップをかける。「泣く前に、お前の返事を聞かせろ!」
「返事って、そんなこと決まってるよ」
「言ってくれなきゃ、わからねーよ」
健吾の言葉に、澪は歪んだ彼の顔辺りに焦点を合わせた。
「ずっと、健吾しか見えなかった。わたしも健吾が好き、大好き!」
この合宿所に来る時に(告白しよう)そう心に決めて断念しかけた言葉を澪はロにした。
瞬間、健吾の両手が澪に伸びる。彼の胸に左頬が強く押しつけられて、背中に回った大きな手が、澪の身体を力強く抱き締めた。
「マジ、嬉しい」頭上から聞こえた彼の声。
健吾の胸の中で(これは夢?)自分に問いかけてみる。澪の瞳の中で、掴めそうで掴めない水面の月が揺れていた。(夢なら夢でもいい)と思う。ただ、このまま覚めなければいい。
「健吾、もう泣いてもいい?」
震える声で聞く澪。
「まだダメだ。キスさせて」
健吾はそう囁くと、片手で澪の顎をすくい上げる。
「えっ、ちょっとまっ!」
戸惑う澪に強引に唇を重ねた。
目を開いたままのキス。途中で呼吸が続かなくなって、彼の胸を拳で叩いた。
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