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(夢じゃない!)そう確信した澪の頬は、突然に赤くなる。先程の健吾とのキスが鮮明に蘇ったのだ。 「まあ、それはさて置き、朝倉さん貴女、凄い熱よ。多分、夏風邪だと思うけど、明日朝一でタクシーに乗って帰りなさい。病院に行った方がいいわ、お母様にさっき連絡しておいたから」  彩子が仕切りのカーテンを開きながら言った瞬間、澪の視界に飛び込んできた顔があった。 「由奈!」 思わず叫ぶようにロから名前が発せられる。 「大丈夫?」 彼女はベッドサイドに歩み寄った。 「コホンッ」彩子の咳払いが聞こえる。「なんとなくね、事情はさっきの山下さんと生田君の会話から、推測できたわ」彩子はそう言うと、由奈の肩を軽く叩き、背を向けて医務室を後にした。 (健吾が由奈に話したんだ)状況を把握すると、澪はサイドテーブルにタオルを投げて身体を起こした。 「由奈わたし、由奈に言わないといけないことがある!」 決意を固めて由奈を直視する。由奈もまっすぐに澪を見た。 「由奈わたし、由奈が健吾に告白してる所、見ちゃったんだ」 「うん」 彼女は頷く。 「わたし由奈の気持ち知って、健吾のこと、あきらめようって思ったの。だけど、あきらめられなかった」「ごめん、ごめんなさい!」ベッドから降りると、澪はそのまま由奈の前にひざまづく。「わたしも、健吾が好きなの!」叫んで頭を下げた。    由奈は慌てて膝を床に落とした。 「やめて、違うの澪!謝るのはあたしの方なんだよ」澪の両肩に手を置いて、かぶりを振る。 「なんで由奈が謝るの?わたし由奈の気持ち知ったのに健吾と」 「聞いて、あたし振られるってわかってて健吾に告白したんだよ」 「えっ?」 「あたしね、ずっと前から澪の気持ちも、健吾の気持ちにも気がついてた。でも、健吾のこと好きな気持ち止められなかったの」    目を大きく開いたまま、由奈を見詰める澪。 「だから、しっかりとあきらめたくて健吾に告白したんだよ」 由奈はそう言った。直後、彼女の瞳から大粒の涙がポロリと零れ落ちる。「紛らわしいことしちゃって、ごめんね。澪を悩ませちゃってごめん」 「ううん違う、由奈は悪くない」 澪は首を思いっきり左右に振った。彼女の切ない気持ちが、じんじんと胸の奥深くに伝わってくる。苦しくて、どうしようもなく悲しくて……。澪は下を向くと、首を振り続けながら泣いていた。 「遅かれ、早かれ、あんた達はこうなると思ってた」  人差指の腹で水適を飛ばしながら由奈が言う。「仕方ないから応援してやる」ニッコリと笑った。    そんな彼女に澪は顔を上げる。
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