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           いつの間に寝てしまったのか、わたしは幸せな夢の続きを突然に中断されて目を覚ました。    視界に広がる見慣れた白い天井。そう、ここは長年住んでる自分のアパートだ。って、そんなことを考えてる場合じゃない!    慌てて飛び起きて、拳を作り頭を何回も叩く。確かにわたしは今、健吾に告白して両想いになる夢を見ていた。由奈と和解して、おまけに健吾とキスまでした。 「だけど、これって夢?」 強く違和感を感じて、拳を開き、頭を抱えた。間もなく、一つの答えが導き出される。 「これは夢じゃない。わたしの記憶だ!」 (なんで、どうして?わたしはあの日、由奈の告白を聞いて健吾をあきらめたんじゃなかったの?)    部屋中をぐるぐると歩き回りながら、自分に問いかけた。  いや、違う違う。わたしは勇気を振り絞って健吾に逢いに湖の方へ歩いて行ったのよ。でも、なんでそう思い直したの?  再度問いかけてみた。深い闇の中、急速回転する渦から浮上する赤い携帯。高校に入学して間もなくの頃、両親にせがんで初めて持たせて貰った自分の携帯電話だ。    そうだ、確かわたしはあの夜、誰かとメールしてたんだ。  その人は、自分の過去使っていたアドレスにメールを送ったと言った。そのアドレスを当時のわたしは使っていたんだ。    次々と浮かびあがる遠い記憶。その人は二十九歳で、独身で。と一つ、また一つと記憶が蘇る度に、次第に両手が小刻みに震え出す。わたしはテーブルの上の推帯電話を掴み取った。    送受信履歴を確認する。眠りにつく前のわたしと彼女のやり取りの記録が残されていた。  十五歳、高校生。友達の告白シーンを見て、この娘は片思いの彼をあきらめると言っていた。  わたしはそんな彼女に、あきらめてはダメだとメールを送ったんだ。 「もしも、その彼が明日死んじゃうとしたら、アナタは一生彼に告白できないよ。そしてずっと、悔やみ続けることなる」 彼女に送ったメールを口に出して読みあげた。 「そんなばかな!」 瞬間、携帯を胸に抱えたまま両膝が床に落ちる。   このメールは先程、わたしが彼女に宛て、最後に送信した内容だ。  そして、このメールを受け取ったのは、まぎれもなく十四年前の、このわたし。彼女からのこのメールによって、あの日わたしは、湖畔に引き返したのだ。そして健吾と両想いになれた。ってことは、わたしは過去と未来、両方の自分とメールしてたってこと?
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