骨が鳴る

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骨が鳴る

 久しぶりの会社は私が休む前と何ら変わりはなかったが少し、というかかなり緊張した。  部長は不在だったため後回しにし、直属の上司に手みやげを持って挨拶に行った後、高松のデスクへと向かう。すると高松は佐原(さはら)と何やら談笑中だった。佐原というのは、高松と同じチームの女性で、彼より二つほど年下だった。  これはもしかするともしかするかもしれない。私がいない間に進展があったのか。  実は最近二人がいい雰囲気なのを見守っていたところだった。もしかしたらもう付き合っているのかもしれないと思ったが、私に何も言わないというのは考えにくいので、付き合う一歩手前といった感じなのかもしれない。 「佐原さんのことどう思う?」  一ヶ月くらい前だろうか。ようやく高松がこの話を切り出してきた。いつ言われるかとそわそわを通り越して焦れったく待っていたところだった。 「どう思うって?」 「いや、最近仕事以外でも色々話すようになってさ。どう思う?」 「どうって、まあ地味かな。でも仕事をよくがんばってるし、がんばる人は好きだよ」 「だろ!地味だけどさ、よく見ると笑った顔とかもかわいいわけなんだ」 「へー」 「しかもああ見えて腐女子なんだぜ?」 「うん」  ああ見えて腐女子、って驚きもしない。よくある話だ。清楚に見えて遊んでるとか、ビッチそうに見えてうぶだとか、世の中そんなことだらけで今さら驚きやしない。 「腐女子わかる?」 「わかるよ」 「でね、アニメも好きらしくてすごく気が合うんだ。趣味が合うとさ、こんなにも話が弾むんだなあって」 「うん」 「お前趣味ある?生きていく上の楽しみとか」  生きていく上の楽しみ?そんなものありはしない。週末にフットサルを少しするが、生きていく上の楽しみと言うほどではない。ただ、何も考えずに汗を流す時間が自分にとっての救いだからしているだけで、それがバスケットボールでも野球でも何でもよかった。たまたま小学校からサッカーをしていたから、フットサルになったというだけの話だった。  寝ることは好きだ。ベッドの上で生温かい毛布にくるまり、土や泥のように混沌と眠るのが好きだ。二度と目覚めなければそれほどの幸せはないと思うが必ず起きてしまう。私はいつになれば朝起きることなく眠り続けることができるのだろう。いつになったら私の骨たちは土の中で穏やかな日々を送れるのだろう。 「寝ること?かな」 「それは生きていく上でってゆーか、寝てるじゃん」  なるほど、寝ることは生きていることとは違うのかもしれない。生きていないのかもしれない。そういうことなのかもしれない。  おもしろい。私はすでに死んでいたのか。希望通りの塵屑だらけの屍だったのか。 「つまり、俺たちは共通の趣味がないから話が盛り上がらないわけだね」  私はにっこりと微笑む。 「なーに、言ってんだよ。俺らには仕事があるだろ」 「仕事は趣味じゃない」 「似たようなもんだ」 「仕事が共通の趣味とか社畜かよ」  私たちはカラカラと笑い合った。
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