同期、高松

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「三次元がダメなのかな。じゃあこれは?」  高松は自分のパソコンの壁紙を見せる。会社のパソコンにも関わらず、よくわからないアニメの画像を恥ずかしがることもなく、惜しげなく使用している高松。しかも、小まめに更新しているようで見るたびに女の子が違う。今使用しているのは、ピンクのツインテールの女の子がブレザーの制服を着ており、両手を胸の横辺りでグーにして内股でジャンプしているような画像。 「どう?」 「かわいいけど、オタクっぽいな」 「まあ俺オタクだから」 「知ってる」  また声を上げて笑う。高松は小柄でぽっちゃりのいかにもオタクらしいアニメオタクだったが、すごく健康的に見えた。二次元が大好きで、でも三次元もちゃんと好きだと熱弁してくれる。二次元でも三次元でも、それが生きていても死んでいても私には関係ないのだけれど。  高松はシステムエンジニアとしての腕も一流で、困ると上司より先に相談に行くくらいだった。彼の作るプログラムは、ソフトウェアの設計が構造化されていて汎用性がある。汎用性があるとはつまり、モジュール分割と階層構造が適切に成されており、仕様変更に耐えうる設計になっているのだ。  その設計が限りなく美しい。高松の締まりのない体型に似つかわしくないくらい洗練され、緻密に計算し尽くされた設計に脱帽する。こいつが作ったとは思いたくないが、確かに彼の設計であり、自分の体型管理はできなくともプログラム管理はできるんだと思うと世の中の不公平さを呪いたくなる。 「ボカロは?ミウとか、ルナとか」  ボカロとはボーカロイドのことで、人間のように歌を歌ったり踊ったりして、二次元と三次元の間を自由に行き来する。 「全く興味なし」 「ミウかわいいじゃん」 「どこが?」 「顔」 「見た目かよ」 「もちろんそれだけじゃないって。だって二次元と三次元の融合だよ?男のロマンさ。二次元でも生身の人間と一緒で恋愛対象になりうる。あれはもう人なんだ、生きてるんだよ」  確かに三次元の自分よりよっぽど人間らしい人間だと思う。骨みたいに細くて紙みたいに薄っぺらい空っぽな私は二次元の中の二次元だ。 「ところでミウに欲情するの?」 「まさか……するね!」  白目になる私を見て今度は高松が笑う。 「じゃあお前はイケメンなのに、この三十年間誰とも付き合ったことないの?」 「まさか」 「あるのかよ」 「お前と一緒にすんな」 「あるよ、俺だって!」  高松は慌てて体を前のめりにして否定した。慌てるところがかわいい。お腹の余った肉がベルトの上に乗っかって、でっかいスライムみたいな形になるとにんまりと笑っているように見えた。腹の肉までまるっと高松。 「すまん、童貞だと思ってた」 「……童貞だけど」 「童貞かよ……」  もちろん知ってたけど、私はその言葉を一応飲み込んでおいた。ささやかな配慮。 「お前違うの?」 「違うね」 「好きじゃない子としたってこと?」 「厳密に言えばちょっと違うけど、そういうことだね」 「最低!」 「お互いがしたくてしたのに最低?」  高松は黙った。
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