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なぜなら鳳凰に魂を喰われてしまうから……確かそんな噂である。
青年は現実主義者であるため、そのようなオカルトじみた噂を知った時も「くだらない!子供だましじゃないか」と恐怖は微塵も感じなかった。
だから今回の「暗殺依頼」も躊躇することなく引き受けたのだ。
それどころか標的を仕留めた後に刺青を撮影し「魂を喰らう鳳凰を逆に喰らってやった」と自慢すれば、暗殺者として箔がつくのではとさえ目論んでいたのである。
青年は軽く息を整えると、シャワールームの扉をノックして、
「深会長……私もご一緒に、よろしいでしょうか……」
と、ナイフを隠したタオルを片手に、そっと扉を開けた。
湯気が立ちこめる中、深会長と呼ばれた標的の男は振り返らなかった。
しかし青年の声に気付かなかった、または無視したという訳ではない。
深は声をかけられるよりも先に、突き当たりの壁のフックにかけられたシャワーに背を向けて、青年を見下ろすかのように仁王立ちしていたのだ。
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