Like a Rolling Stone

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 平日の昼間なのに結構乗客がいて席には着けず、吊革に捕まりなが足を踏ん張っていた昭雄は、ポータブルCDプレーヤーに接続したイヤホンで音楽を聴いていた。彼は就活をしていて面接へ向かう最中、今度駄目だったら路上生活だと危機感を募らせていた。それと共に背後から漂う脂粉の香が気になっていた。  その意識が心を征服し、背後から感じる色香を弥が上にも想像し、背中がむずむずして振り向きたいけど振り向けなくて落ち着かない。そこへ持って来て白い繊手が後ろから忍び寄って来て何と股間を弄り出したものだから昭雄は半端ない気持ち良さを堪えながらそれをきっかけに振り向いた。  すると、満を持していたものか、その女は科を作った上に婀娜っぽい声を装って単刀直入に言った。 「あたし、あなたが気に入ってしまったの」  目鼻立ちが恐ろしく整い、ロングヘアも肌も艶々した、目にも鮮やかな美女だ。ハイヒールを履ているが、背は中肉中背の昭雄より少し低く丁度いい感じだし、袖がメッシュのビショップスリーブでボディコンシャスなニットドレスに包まれたスタイルもルックス同様抜群だから痴漢に告白されたと言うより超セクシーな美女に告白された、それも突如として途轍もなく煽情的な前代未聞の空前絶後のやり方で。そんな感慨を須臾の間に覚え、動悸の激しさの余り胸から心臓が飛び出さんばかりに驚愕する昭雄とは対照的に美女は従容として言った。 「あなたをホームで見かけた時に見初めてしまったの。で、あなたと同じ車両に乗って秘かに背後から接近したらイヤホンからライクアローリングストーンと歌声が微かに漏れて来て、あたしの耳朶に触れたことが決定的にあたしを好きにさせたのよ」  昭雄は周囲の目も耳も意とせずに話すことにも驚きながら、な、何で?とどもりながら聞いた。 「私も歌詞の通り転がる石のように転落人生を歩んできたの」  こんなことを人目も憚らず言うことにも昭雄は驚きながら、と、と言うと?とまたどもりながら聞くと、「その辺のことは次の駅で降りてからゆっくり話し合いましょうよ」と美女が誘って来た。 「い、いや、話し合うって僕はこれから面接に行くんで」 「そんなの受けたって碌なことにならないわ。それより私の紐にならない?」 「えっ!」 「ねえ、そうしなさいよ、ねえ、あたし、いいでしょ」とごり押しするように迫る美女の誘惑に昭雄はあっさり負け、そうだ、どうせ、面接受けても駄目に決まってると敢えて思うことにして、この女の紐ならいいかもなと思ったので、「そ、そんなに慫慂するなら取り敢えず話し合ってもいいですよ」と丁寧語で請け合い、次の駅で美女と共に降りることとなった。
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