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私は昨年の夏、ある人物と梅田で二人飲み会をした。かれこれ1時間は語ったであろう、彼は私に「明石さんちょっと聞いてみて」とヘッドフォンを差し出した。彼は知り合った頃からメカニックマニアでもあるが、音楽好きなことは既に承知の上だ。
私は勧められるままヘッドフォンを両耳に装着した。
驚いた! 私はその透明感溢れるクリアーな音質に魅了された。
「吉村さんこれって・・? 何ですかこの音は!」
「どや!エエやろ⁉ 綺麗な音やろ⁉」
デジタル式の音楽プレーヤーである。今流行りのインターネットを使った音楽配信からデジタルソースをダウンロードしたものっだと説明してもらった。
ん?どんな曲かって?・・気になりますか? 私はこれを聴いて涙目になりました。
えっ、早く教えろ⁉って・・驚いちゃだめですよイイですか! ヒント:アーチストは石川さゆりさんです。さゆりと言えばあのド艶歌「天城越え」です。
誰ですか?な~んだって言ったのは? 私は彼より一つ下の72歳なんです。だから艶歌を聴くとその歌詞に景色が見えてくるんです。さらに綺麗な音ともなれば歌手の声帯の嘆きが体内の毛細血管にまで沁み込んで来るんです。まさに鳥肌です。
その日からというもの、俄然私も欲しくなり「寝ては夢、起きてはうつつまぼろしの」来る日も来る日も、何度もインターネット検索を重ね、多くの機種とそれぞれの機能を学習するようになったのです。
その甲斐あって私の気持ちの中では既にある機種に固まりつつあった。
吉村さんのそれは、メモリー部分とヘッドフォンが、ケーブルで繋がっているセパレート型だ。
でも私が欲しくなったのは、メモリー一体型の全くのコードレスタイプだった。
そうなんです、私はその製品の現物を是非確かめたいがため、電気店に入ったのである。確かめるだけだったのに・・まさかです、滅多に衝動買いなんてしない私が、迷うことなく一目ぼれして買ってしまったのである。
ところが残念なことに3か月ほどで右側のイヤフォンだけが充電できなくなってしまった。
「同じものがお店に在庫していますのでご持参いただければ交換しますが⁉」
と電話の向こうの担当者の言葉である。
翌日、私は防寒ジャケットの防風パーカーを頭からかぶると、自転車走行で捲れないように顎ホックもロックした。これではメガネを掛ければ、家内だって私だとは分からくらいの防寒装備である。
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