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商店街
2年前の年の暮れのことだった。私は防寒ジャケットを完全装着すると自転車に乗って或る家電量販店に向かっていた・・
わが国で暮れと言えば冬真っ盛りである。それだけに防寒ジャケットを着て自転車に乗ることがそれほど珍しくも無い光景だと思うが・・それがどうしたと言うのだ?・・
話の始まりはそれから3か月も前のことである、私は運動不足を理由に珍しく車を使わずに家内と一緒に散歩に出かけた。残暑を感じない筈では無いが、すでに熱中症を危惧することなど全く無かった。
半時間は歩いただろう、いつの間にか大阪では有名な・・いや正しくは昔は有名だった商店街に差し掛かった。
家内は洋品店、特に婦人服のお店の前に行くと、まるで換気扇に吸い込まれた煙ように無防備に店の中へと足を踏み入れる。
「え~いらっしゃいませ! 昨日東京から入荷したばっかりのバリバリのニューファッションでっせ!・・冷やかしでもエエから見てってや!」
元気で粋な呼び込みが聞こえる。
商店街は活気があるよね、それに引き換えスーパーやデパートの店員は同じ業種でも少し対応が違うようだ。
客が入店しても直ぐには声を掛けないようだ。或る程度の時間、客を泳がすと言うのだ。いきなり声をかけてしまうと客が身構えるからかも知れない。
だが、ただ放っているだけではない、その客が何を見て、どんな商品に触れているのかを、しっかりと観察しているのである。本当に欲しい商品が見つかると客の目の色は、店員を探すようなブルーに変化する。これに店員が気づくというから大したもんである。
でもこれも一昔前の話であって。直近ではそのようなお店ばかりでもなさそうである。
リストラも度が過ぎた今では、客が探そうにも店員が見つからないお店も少なくない。
長く歩いていると足の裏が痛くなってきた。腕の痺れは頸椎狭窄症で手術を勧められているが、最近足の裏にもお餅がくっついているように感じる脊柱管狭窄症も患っているようだ。
「お母さん、この電気屋さんでちょっと見たいもんが有るねんけど・・かまへんやろか?」
足から悲鳴が聞こえてきそうなので、カフェででも一休みかと期待していた家内だろうに・・それでも
「かまへんけど・・」と言ってくれた。
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