知らないはずの人

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「奏、あの日私を見たの?」  最初は黙っていた奏は、ゆっくりと頷いた。 「最初は、よくあるホテルディナーのプロポーズかと思ってた。晴香は俺の好みだから、羨ましい男だと思ったし。 でもその後、部屋を取っていたはずの男が、ちょうど仕事終わりだった俺とすれ違って、あれ?って思ったんだ。 で、気になってもう少し残っていたら、泣き腫らした晴香がチェックアウトにフロントに行くのを見た。 実はその後、心配でアパートまで後ろをついて行ったんだけど…」 「す、ストーカー?」 「どっちかと言うとホテルから帰る途中に自殺しないか心配だったから。うちのホテルから帰宅途中で何があっても困るし。」  晴香は、気になった事を聞いてみた。 「それじゃ、バーで会ったのも?」 「それは信じないかもしれないけど、偶然。俺はあの店によく行ってるから。昨日も休日出勤の帰りに軽く飲むつもりで行ったんだ。 そしたら、やたら飲んでる女の子がいて、先週の子だって気が付いたから声をかけて…」 「ねぇ、奏はいいの?私、双子なんだけどね。姉に何でも取られちゃうんだ。雰囲気は違うけど、そっくりな顔で私よりふわふわな女の子で…」 「晴香が心配する理由も分かるつもりだけど、俺は晴香がいいんだ。見た目だけの心が歪んでいる子より健気で真っ直ぐな晴香がね。」  奏は、晴香の欲しい言葉をくれる。 「奏、私ここに住んでもいい?」 「もちろん、喜んで。」  奏が、ダイニングテーブルを乗り越えるように晴香の顎を持ち上げ、優しくキスをした。
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