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土曜日の午前11時頃、晴香は待ち合わせ場所のクインホテルのラウンジに来ている。
今日の主役は、千晴だから下手に目立つことも地味すぎて母に文句を言われるのも嫌だったからシルバーグレーのワンピースにボレロのアンサンブルにした。
ラウンジで待っているといかにもな赤地に牡丹柄の振袖を着た千晴が、両親と歩いてくるのが見えた。
「あら、晴香。ホントに来たんだ。」
「千晴に来るように言われたから来たけど、お呼びじゃないなら帰ります。」
千晴は、私を呼んだものの泣き寝入りして顔を出すはずがないと思っていたようだ。
「来たんなら、あちらのご家族に失礼のない態度を取りなさいよ。」
相変わらずの母に晴香は、この人と仲良くなるのはもう無理だと諦める。
父に関しても晴香の味方にはならないのが、分かっているが今日この食事会の後、籍を抜いてもらう話をした時にどう反応するか一番分からないという不安があった。
もう家族に会う気もなかったが、今日は奏が一緒に来てくれて、今は職場の方々に会わないように仕事に来た振りをして自分の仕事場で待っていてくれている。
千晴たちに対するには、タイミングが大事だと奏に言われたから、晴香は今ここにいる必要を自分の中でもう一度考えた。
両家の顔合わせは、ホテル内の小宴会場で行われた。弘隆の両親とお兄さん夫婦と子どもの幸隆くん。両親と千晴と晴香の10人で囲む食卓は、ぎこちなさが残るものとなった。
当然の事だが、事情を聞いていたとしても結婚すると思っていた元カノが一緒にテーブルを囲んでいたら、弘隆の家族は晴香を可愛がってくれていただけに気まずくなるものだ。
愛想笑いをするしかない弘隆の家族の事情を知らないのは、晴香の両親だけだったので、食事会が終わると弘隆は、晴香の父に「何か不手際があったのか」と不審がる父のフォローに冷や汗をかいていた。
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