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「お父さん、今日は何の用なんですか。」
「千晴が紹介したい人を連れて来たそうなんだ。一応、お前も家族だから呼んだ。」
父にリビングに行くように言われ、一緒にそちらへ移動した。
リビングには、母や千晴と楽しそうに話をしている男性の後ろ姿が見える。
失恋した自分と違い、幸せそうな千晴にどす黒い感情を持ってしまう事にやるせなさを覚えていた晴香は、父が来たことに気づいて、立ち上がり振り返った男性を見て、信じられない事が起こったと思っていた。
目の前にいたのは、つい1週間前に晴香を捨てた弘隆だったから。
「は、月島さん…なんでここに?」
弘隆もびっくりしているようだった。
「加納さんこそ…ここは、私の実家で千晴は双子の姉ですけど。」
口を挟んだのは、千晴だった。
「ひろくん。晴香と知り合いだったの?」
明らかにいつもより可愛らしい仕草で小首を傾げながら弘隆を見て笑う千晴に弘隆は、ニコニコしながら答えた。
「同じ会社だから、顔見知り程度だよ。」
「そうなんだ。今日は、パパとママに彼を紹介してたのよ。晴香、私達は結婚するんだから、ひろくんがかっこいいからって取らないでね。」
私は、そこで弘隆の心変わりが千晴のせいだとはっきり分かった。
千晴は、かわいい雰囲気だが強かだ。晴香が持っているものは、全て晴香から取り上げ自分のものにして来た。
同じ学校ではなかったが、晴香と友達以上になりそうなカッコいい男の子は、みんな千晴がいつのまにか彼氏にしていたのだ。
弘隆もどこかで私といるところを見られていたのだろう。
弘隆は、クラウン食品の営業一課のエースだ。将来有望な営業マン。見た目もそこそこいい。
ただ千晴の行動はもちろん、弘隆のあの日の態度も晴香は耐えられるものじゃなかった。
「私、用事があるから帰るね。私は、もう家を出ているんだから、もう呼ばなくていいよ。」
晴香は、悔し涙を千晴はもちろん弘隆にも見せたくなくて、もう二度とここには来ないと心に決め、振り返らずに実家をあとにした。
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