知らないはずの人

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 昨日、実家を後にしたが自分の部屋に帰る気分にはなれなかった。あそこには弘隆がよく泊まりに来ていた。  今は、もう思い出したくない思い出のある部屋で大人しく眠るなんて出来なかった。  晴香は、いままで入った事のない路地裏にあるバーに吸い込まれるように入って、カウンター前に座り、カクテルを手当たり次第、頼んでいた。 「随分とピッチが早いが、何かあったのか?」  声をかけて来たのは、3つ隣のスツールに座っていた男性だった。 「私には何もないのよ。3年も付き合った彼も、優しい家族も。もうアパートにも帰りたくない。」 「それなら俺と暮らすか?」  そうだ。そのまま一緒に部屋に入って… よく知らないこの人に抱かれちゃったんだ。  余程ダメージが強かったのだろう。普段なら慎重に事を勧める晴香には、あり得ない行動だった。   「あ、バーにいましたよね…」 「思い出した?俺の名前は?」  なんだっけ?と晴香はしばらく考えて高校時代のクラスメイトと同じ名前だった事を話した事を思い出した。 「かなた?」 「そうだよ。小林かなた。よく思い出せたな。晴香は、昨日酔っ払っていたけど、俺とここに住むって言ったのは思い出した?」 「うん…」  どんな人か分からないのに、最初から妙に親近感があって色々自分のことを話していたはずだ。  高校時代、一緒に学級委員をやっていた宝田(かなた)は、人懐っこい笑顔と160センチの晴香より少しだけ身長が高い子犬みたいな男の子だった。  その奏と同じ音の名前を持つフェロモンダダ漏れの180センチはありそうなイケメンでは別人なのは分かるが、なぜか安心してしまっていた。
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