女神の錆びた斧

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「木こりが、どうかしましたか?」  俺の質問に女神は淋しげな笑顔を浮かべ、 「あいつも、木こりだったんだよね。とっても優しくて、いい男だった……最初はね」  その男を思い出すかのように、目を細め遠くを見つめたまま女神は続ける。 「きっかけはさ、あんたと同じ、あいつが斧を落としたんだよ。この池に。それを拾って、渡してやる瞬間、指先が触れ合ってさ。ビビっと電気が走ったような感覚があったんだよ。情けない話、惚れちゃったんだね。あたいの気持ちに気づいたのか、それからあいつは毎日ここに通うようになった。来る日も来る日も、あたいたちはここで愛し合ったんだよ。そんなある日のことだ。あいつが言うのさ。お前は金の斧と銀の斧を持っちゃいないのか、ってね。池の女神と言えばそれだろうと。惚れた女の弱みさ。あいつに見せてやりたくてさ、あたいは何とか伝を頼って金と銀の斧を手に入れたよ。ところがだ。あいつはそれを持って消えちまったんだ。二度と姿を現しやしない」  そこで女神はこちらへと視線を向ける。 「あいつはさ、あたいのことを抱くだけ抱いた上に、あたいが苦労して手に入れた斧を持ってトンズラしたんだよ。風のうわさじゃあいつ、斧はとっとと売り払って金に替えたっていうじゃないか。ひどい話だろ?」  同意を示すために肯いて見せると、女神の表情は徐々に険しくなった。そして凄むように俺を睨むと、 「でもね。あたいだって女神の端くれだ。コケにされたまま黙っちゃいないよ。あいつにはきっちりと罰を与えてやったさ。女神を怒らせたら、怖いんだよ」  その迫力に気圧されながらも、 「罰って、どんな?」 「それは教えられないよ」  女神はいたずらっぽい笑顔を見せた。その表情に胸を撫で下ろす。こっちにまでとばっちりで罰が与えられやしないかとひやひやしていたのだ。  それにしても今の女神の話。間違いなく友人のことだろう。あの野郎。何が過程は違うけど結果は童話と同じようなものだ、だよ。違うにも程があるだろう。まるで結婚詐欺のようじゃないか。 「どうしたんだい?」
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