耶摩山駅ノ、オトシモノ

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 昭和の終わりから平成のはじめにかけて、名古屋に耶摩山(やまやま)という地名が存在した。高度経済成長期には歓楽街として栄えたが、バブル崩壊後、耶摩山はシャッター街となっていた。  私が地下鉄・耶摩山駅の駅員になったのは、高校を卒業してすぐのことだ。郊外にあるので乗客は少なかったが、この当時は終着駅だったため落とし物の数が尋常ではなかった。よくある傘にはじまり、なぜか大量の昆虫標本の入ったカバン、遠く北海道の切符の入ったジャケットまで、その種類は千差万別であった。  新人だったこともあり、落とし物管理担当を押し付けられた私だが、密かにその業務に楽しみを覚えていた。回送前の車内をチェックして落とし物を探している時などは宝探しのようにわくわくしたものだし、持ち主が見つかって嬉しそうに帰っていくと駅員としても達成感を覚えた。いつも薄暗くて空気がくぐもっていた駅内だったが、私は耶摩山駅の閑散とした雰囲気が大好きだった。  夏だったか冬だったかすらよく覚えていないが、ある時白い不思議なキーホルダーを拾った。表面がつるつるとしていて丸い石のようなのだが、石よりは重みがない。真ん中に穴があけられ、ボールチェーンで留められている。変わったキーホルダーだな、と私は思いながら、車内の座席の上からそのキーホルダーを拾い上げ、駅員室の小物用の落とし物ボックスにいれた。小さいものだけど特徴的だから持ち主はすぐに見つかりそうだ。そう思ったが、しばらくしても持ち主が名乗り出ることはなかった。  それどころか、不思議なことは続いた。ある日の終電後、また同じようなキーホルダーを拾ったのだ。白くてつるつるしていて、今度は少し大きい。
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