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その場にいるのが苦しくなり、僕は教頭先生に連絡することを二人に告げて、長い廊下へ歩き出した。
茜がそれほどまでに僕のことを頼りにしていたと知って、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
僕は彼女に「気を付けて」と言わなかった。
そして、はぐらかすようにして逃げた。
僕は彼女の担任で、彼女は僕の大切な生徒なのに。
どこまで歩いても永遠に続く気がした。
病院の廊下は僕に冷たかった。
立ち止まったら涙がこぼれそうで、ただただ足を前に進めた。
どうか、希望に満ちた若い命を、これから素敵な人生が待っている茜を、助けてあげてください。
僕は、彼女が助かるようにと願うしかなかった。
*
突き当たりを右に曲がった。
その先には相変わらず海の底のような深緑色の廊下が伸びている。
僕は何処へ行こうとしているのだろう。でも止まりたくはなかった。
この先も突き当たって右に曲がるのだろう。
それを続けているうちに、また二人の所へ戻る。
そう思って歩きながら、廊下の奥にある避難口誘導灯をぼんやりと眺めて、僕は息を止めた。
誘導灯に淡く照らされ、それは四本足で立っていた。
見覚えのある、金色とも白銀ともいえる光を見付けて、僕は座り込んだ。
小さな子どものように、大粒の涙が頬を濡らしていた。
離れた所から、かすかにエレベーターの開く音がした。
話し声がそれに続く。
そして、僕は聞いた。
この暗く深い海を抜け出せるであろう、希望の光を。
「先生――ありがとう……ございました……」
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