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この夜、僕は生かされた。
飛行機が墜落したと聞いた夜、僕はずっとトイレの中で、縦に線の入った色の悪い爪を眺めていた。屋根に当たる晩秋の雨は、しつこいくらい僕の耳に残り、今となっては懐かしいテレビの砂嵐のように不快指数を上げた。
明良は高校時代からの親友だった。
持ち前の積極性と英語力を生かし、海外で働いていた。
正月に久し振りに会った時も、日に焼けた顔で、海外で働く楽しさや、今進めている新しいプロジェクトへの意気込みを熱く語っていた。
学びたくても学べない子どもたちのために学校を作る。
そのためのメンバーや資金も順調に集まっている。
そう話して、大きな声で笑っていた。
そんな明良が、突然この世界からいなくなることはありえなかった。
考えたこともなかった。
人付き合いが得意ではなく、自己主張の少ない僕とは違って、彼は本当に愛されていた。
高校の時からずっと、明良を悪く言う同級生も教師もいなかった。
天井を見上げて、幼いころ一緒に暮らしていたおばさんも雨の日に亡くなったことを思い出した。
僕はトイレに座ったまま、指先を曲げた両手とともに朝を迎えるしかなかった。
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