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特別な存在
大学を卒業し、初任地となる中学校への赴任が近付いたある日、僕はふと思い立って狼石へ報告に訪れた。
三月の心地よい風を感じながら、思っていたよりも傾斜のある、幅や高さのまちまちな木の階段を登っていった。
上まで登り切ると、頭上は木々に覆われて、ほとんど空が見えなくなる。
その代わりに、忘れていたことを一気に思い出させてくれるような、優しい木漏れ日が出迎えてくれた。
狼石は、大きくなった僕には小さく感じられた。
しかし、丸みを帯び、少し頭を傾けたそれは、今も変わらず僕にとって特別な存在だった。
小学生の時のような感覚はなかったが、狼石に触れると何とも言えない懐かしい気持ちになった。
「何の取り柄もない平凡な僕が、教師としてスタートできることになりました。ありがとうございます」
狼石には、お酒が供えられてあった。
僕以外にも、同じように狼石に会いに来ている人がいる、それがただうれしかった。
何も持ってこなかった僕は、そっと五円玉を置いた。
「どうか、これからも教師としての僕を見守っていてください」
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