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GRAVE
ハンドルを左に切って急停車した僕の耳に、「CHILDREN OF THE GRAVE」のリフが届いてきた。
大きく息を吐いてから、大事なことを思い出して車から降り、僕は狼の姿を探した。
弱々しい街灯に照らされた道路には、何も残されていなかった。
ここには僕以外誰もいない、そう思わせる冷たい月が出ていた。
僕は助けてもらったのだ。見慣れた帰り道をまた運転しながら、そう思った。
明良は夢半ばにして、海の向こうで亡くなった。
平凡な僕は生き残った。
命とは一体、誰のものなのだろう。
ふと、「GRAVE」が「墓」を意味することを思い出した。
ハンドルを握る手にうっすらと汗を感じながら、命とは自分のものであって、自分のものではない気がした。
やがて、家から一番近いコンビニが見えてきた。
父や母はとっくに寝ているだろうが、きっといつものようにメモと共に夕食を置いてくれているだろう。
僕は助けてもらったのだ。僕の側には確かに狼がいた。
家の駐車場に車を停めた途端、涙が溢れてきた。
それを止めるすべを知らない僕は、しばらくの間、何重にも重なった星を見ているしかなかった。
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