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 茜が帰ってくる十二月二十七日、僕は教室と職員室を往復しながら仕事をしていた。  生徒のいない冬の校舎は、思った以上に冷たい。しかし、今日で年内の仕事は終わりにしようと思っていたので、寒さを感じながらも集中力が落ちることはなかった。  仕事のメモに順番にチェックを入れて、順調に僕のやるべき作業は進んでいった。  そして、窓の外に降る雪を時折眺めながら、卒業学年の担任として初めて経験する受験や卒業式を想像していた。      *  職員室の時計の針が午後五時を回った。  机の上を整理しながら帰り支度を始めていると、教頭先生の机に置かれている電話が鳴った。  本能的に嫌な予感がした。  教頭先生の握ったペンが止まることなく滑り続ける。  そして、僕が呼ばれた。  窓の外が深い海の中に思えてきて、息苦しさを覚えた。  雪はほぼ止んでいたが、まだ落ちてくるその一つ一つが、スローモーションになって視界から消えてくれなかった。  受話器を受け取る時に、教頭先生が僕に向かって何かを言ったのは分かった。  でもその声は、あまりに低く聞き取れなかった。  受話器の向こうでは、茜の母親がすすり泣きながら、懸命に声を振り絞っていた。 「茜が……、電車の事故に……」
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